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2022.05.13

風野真知雄『いい湯じゃのう 三 ご落胤の真相』 大団円、誰が本当のご落胤?

 何故か登場人物と事件に「湯」「風呂」が絡む、ユニークな風野版天一坊事件の最終巻であります。吉宗がお忍びの銭湯入浴を満喫している一方で、暗躍する天一坊一味と、その正体を求めて東奔西走するお庭番コンビ。物語の三つの軸は、ついに江戸の銭湯で交錯し、思いもよらぬ真実が明らかに……

 とてつもない肩の凝りに悩まされた末、目安箱の一通の投書から、銭湯に興味を持った吉宗。すったもんだの末に江戸の富士乃湯に念願の入湯を果たした吉宗は、そこで様々な市井の事件に遭遇、探偵役を務めることになります。
 一方、その吉宗の御落胤と疑われる天一坊なる山伏の一党が江戸で何やら活動していることを知った幕閣は、天一坊が生まれた頃に吉宗が二人の女性と付き合っていたことを知り、湯煙の権蔵とあけびのお庭番コンビを紀州に派遣することに……


 と、吉宗(と幕閣と風呂屋の客たち)、権蔵とあけび、そして天一坊(というよりその腹心の山内伊賀亮)の主に三つの視点から展開していた本作ですが、この最終巻において、いよいよこの三つが一つにまとまることになります。

 不可解な吉宗の元恋人とその子供の足跡を追い、湯煙り仙人なる怪人の元にまで向かう御庭番コンビ。各地の名湯を潰したり揉み師を抹殺するなどして吉宗の肩凝りを進め、それを天一坊に治療させるのをきっかけに親子の名乗りを挙げさせようとする(冷静に考えるとスゴい企みだ……)伊賀亮。
 唯一、吉宗は相変わらず富士乃湯で常連の丈次や桃子とともに謎解きに興じたりしていたのですが――その一方で幕閣は天一坊の存在に頭を抱えていたのですが――しかしこの三者が、いや関係する登場人物全員が、奇しき因縁の糸に手繰り寄せられるように、富士乃湯に集結することになるのです。

 そしてこのドラマの中心になるのが、天一坊の存在――いや、吉宗のご落胤の存在であることは言うまでもありません。天一坊はさておくとして、上で触れたように本作においては天一坊の産まれる前に、吉宗が同時に二人の女性と付き合っていたのですから。
 というわけで、そこにはもう一人いるのでは? という疑問が当然浮かんでくるのですが……

 はたして本シリーズには、以前から明らかに怪しいキャラクターがいたのですが、さて彼も本当にご落胤なのか。いや、そもそも天一坊も本物のご落胤なのか? 本作最後の、そして最大の謎解きに、吉宗は挑むことになります。
 そしてその真実は――そっち!? と相当意外な結末で、いやはや、完全に裏をかかれました。(それがフェアかどうかは冒頭から読み返してみないとですが……)


 キャラクター総出演の謎解きの後には、クライマックスに相応しい大活劇もあり(ここでこのキャラがこの技を繰り出すか! という見せ場も嬉しい)、エンターテイメントとしていうことなしの本作。
 ユーモラスでペーソス溢れる人物造形も印象的――個人的には天一坊の父にまつわる描写に、強く作者らしさを感じました――で、ライトなミステリ味も含めて、作者らしさ満点の物語であったと感じます。

 正直なところ、意味有りげに登場したのに全く活躍しないキャラがいたり、メインと鳴るご落胤の謎解きがいささか早急に感じられたりと、もう少し分量があればと思う部分もあったのですが、新聞連載ということで難しい部分もあるのかもしれません。

 お庭番コンビの新たな冒険が予告されていたり、何よりも実に気持ちの良い結末であったりと十分楽しませていただいたこの最終巻。『いい湯じゃのう』、大団円であります。


『いい湯じゃのう 三 ご落胤の真相』(風野真知雄 PHP文芸文庫) Amazon

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