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2022.05.28

音中さわき『明治浪漫綺話』第5巻 恋する乙女の最大の敵と最大の理解者?

 異国のヴァンパイアと彼に恋した女学生の波乱万丈の運命を描く本作も、クライマックス目前――鹿鳴館の舞踏会から一転、ヴァンパイアを憎む者の手によって深手を負ったルイスと、その陰で糸引く者によって洋上に拉致された十和。彼女を救うために駆けつけたルイスと東ですが……

 女学院の麗子、女高師のちよたちと鹿鳴館の舞踏会に臨むこととなった十和。色々あったものの舞踏会は無事に終わるかと思われましたが、そこに国粋主義者の爆弾テロが発生、その混乱の中でルイスは銀の弾丸で胸を撃たれてしまうのでした。
 一命を取り留めたものの人事不省の状況のルイス。そんな中で十和はフランスの(元)ヴァンパイア・ハンターであり、スパイでもあったモーリスによって洋上に拉致されてしまい……

 というわけで、十和の家を傾かせた元凶も現れ、いよいよクライマックスといった展開ですが、復活したルイスと彼に従う東は、はっきり言って作中では最強キャラ。そんな二人が本気になって十和を救いに来たのですから、敵う相手がいるはずもありません。
 かくてこの巻の冒頭で十和は救出されるのですが――真の敵は別にいたのです。

 それは世間の目。世間では、十和がモーリスに拉致されていた期間(ルイスが人事不省になっていたこともあり)、彼女はルイスと駆け落ちしていたこととされてしまっていたのであります。
 華族のお嬢様と政府のお雇い外国人のスキャンダルというのは、世の口さがない人々にとっては格好の騒ぎの種。もちろん伊藤総理大臣がバックにいるルイスだけに、やがて政府から否定の発表が出たものの、ルイスは責任を取って教壇を降りることになるのでした。

 そして十和の記憶を消すために、彼女の首を噛もうとするルイスですが――そこに折悪しく現れたのは、十和の婚約者である国門青年!


 そんなわけで、命の危機が迫った以上に十和を苦しめるのが世間の目であるというのが、ある意味実に本作らしい展開ですが、この巻の後半は、この状況下で、自分の想いに戸惑う十和、そしてルイスの姿が描かれることになります。

 これまで長きに渡る生を送ってきたルイスにとっては、このような状況はある程度経験済みといえるでしょう。しかし思春期の十和にとっては、異国のヴァンパイアであり学校の教師である(そして一時期家に寄宿していた)という色々と要素が多いルイスへの想いは、あまりに大きく重いものであります。

 もちろん麗子もちよも、十和の良き理解者として彼女を支え、応援してくれるのですが、いまや十和には家の決めた相手とはいえ婚約者がいるのです。
 しかもこの婚約者の国門青年、名門の出のイケメンで、常に紳士的に十和に接し、悩み多き彼女を何くれとなく支える好青年(十和に嫉妬する元婚約者が家の門に呪いの御札を貼っていくほど)。そしてルイスのことにも非常に理解があり――?

 と、彼女の最大の理解者であるといっても、ここまで来るとさすがに気味が悪くなってくる国門の好青年ぶり。ルイスに嫉妬心を抱かないというのは人間が出来ているから、と理解できても、むしろ十和とルイスを会わせるために積極的に行動するとまで来ては、ちょっとおかしいぞ、と疑いたくなります。

 そしてこの巻のラストで明かされる国門の真実とは……
 なるほど、確かにそれはあり得ることですし、それ自体をどうこう言う気は全くありませんが、だからといって十和がそれに乗ったりしたらかなり最低だぞ、というものであります。
(しかしここでむしろ十和に謝る国門青年、真剣に好青年過ぎます)

 とはいえ、八方丸く収まるには国門の存在は渡りに舟であるわけで――いやはやどうやら次巻が最終巻のようですが、はたしてどのように物語の結末を迎えるのか。
 正直なところ、吸血鬼ものとしてはこれ以上物語の山は描きにくいような気もしますが、ロマンスとしては、はたして――最後まで物語を見届けたいと思います。


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