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2022.05.15

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第18章の3「聖の思惑」 第18章の4「宿坊の夜」

 北から来た盲目の美少女修法師・百夜の活躍を描く『百夜・百鬼夜行帖』第十八章は、数奇な運命の下に神になろうとしている少女・むつを、百夜たちが津軽に送るまでの旅が描かれることになります。この第百四話・第百五話では、出羽と早池峰で奇妙な物語が展開します。

「聖の思惑」
 旅の途中、突然出羽国に行きたいと言い出したむつ。出羽三山は女人禁制であるものの、何やら気になることがあるというのですが――しかしその晩、出羽に向かう前に、むつと百夜の周囲に奇怪な現象が起きることになります。
 気がつけばいつの間にか修験者の服装となっており、刺激臭のある煙や、強烈な飢えと乾きに襲われる二人。さらに光る樹を伐り倒させられたり、天狗や餓鬼、巨大な骸骨と対峙することとなったりと、次々に理不尽な状況に放り込まれることに……

 百夜やむつ、二人の師の峻岳坊高星にもわからない、相手の正体とその目的とは?

 と、突然何処ともわからぬ異界に放り込まれた百夜とむつが、次々と正体不明の試練に直面することになる本作。現実世界の方でも二人が消えてしまい、残された高星たちは懸命に捜索に当たることになります。
 考えてみれば、百夜だけでなくその師である高星、そして半ば神になりつつあるむつと、今回の旅の顔ぶれは、超自然的な相手に対してはほとんど最強メンバー。それだけにこの三人であっても対処不能――というか、ただ受け容れるしかない相手の登場には驚かされます。

 しかしこの不可解な現象の意味と、それを起こした者の正体は、わかってみれば、なるほどと思わされるもの。現世の人間には理解し難いものの、異界の側から見れば一定の理があるという、いわば超自然的な合理性というべきものは、本シリーズではしばしば描かれてきましたが、本作にもそれがあります。

 終わってみればどこか民話的な味わいすらある本作ですが、普段はくそじじい的な顔を見せている高星がふと見せる、師としての顔も印象的なエピソードです。


「宿坊の夜」
 むつの希望で早池峰山詣でに向かった百夜一行が、麓の町で泊まることとなった、主のいない宿坊。ただならぬ気配を感じさせる、その宿坊に足を踏み入れた一行を迎えたのは、故郷に帰る旅の娘・しめ、行商人の為造、若い旅の僧の法稔の三人でした。

 そして百夜たちが修法師と知るや、恐ろしい体験を語り始めたしめ。この宿坊は空き家のはずなのに天井から子供の足音が響き、法稔の開けてくれという声に板戸を開けてみても、そこには誰もいなかったというのです。
 そして足音など不審な音は為造の耳にも聞こえ、怯える二人は法稔に妖怪ではと訴えるのですが――彼は狐狸妖怪の類は迷信にすぎないと断じ、経文を唱えることも拒否するのでした。

 そんなところにやってきたという百夜一行が。やがて夜も更けていく中、板戸が激しく叩かれ、法稔をはじめ、ここに集った人々の名を呼ぶ声が……

 雪の山荘ものと幽霊屋敷もののハイブリッドという印象の本作ですが、真相自体は百夜とむつがいる以上すぐに明らかになるものの、その真相に照らし合わせてみると、怪異の意味に納得させられるのは、なかなか恐ろしいものがあります。

 そしてそこから正体を現した怪異の描写もかなりグロテスクなのですが――しかし真に恐ろしいのは、この世の(そしてそれだけでなくあの世の)則に背を向け、他者の手を拒絶した者の末路でしょう。
 正直なところ、百夜たちは厳しすぎるのでは、という印象もあるのですが、逆に彼女たちですら救いようがないとすれば――これほど恐ろしいものはありません。


 しかし本筋には全く関係ないのですが、今回商売の関係で別行動だった左吉が、いなくてもほとんど全く支障がなかったのは……
(驚き役には久保田五郎右衛門がいるので)


『百夜・百鬼夜行帖』(平谷美樹 小学館) 「聖の思惑」 Amazon/ 「宿坊の夜」 Amazon

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