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2022.05.20

平谷美樹『貸し物屋お庸謎解き帖 桜と長持』 帰ってきたお庸! 少女店主の奮闘再び!

 かつて白泉社招き猫文庫で第四弾まで刊行されながら、レーベルの終了とともに中断していた『貸し物屋お庸』が復活しました。貸し物屋(レンタル屋)の出店を営む、口は悪いが情に厚い江戸っ子娘・お庸が、貸し物にまつわる様々な事件解決のために奔走する連作であります。

 「無いものはない」という看板で知られる江戸有数の貸し物屋・湊屋。お庸は若年ながらその両国出店を預かり、日夜威勢よく奮闘する少女であります。
 元々は大工の棟梁の娘だったものが押し込みに両親を殺され、仇討ちに力を借りた代金代わりに、湊屋の主・清五郎の下で働くことになったお庸。以来、清五郎に付けられた手代の松之助とともに、お庸は小さくとも一店の主として奮闘してきました。

 基本的には客の要望に応じて品物を貸し、代金を取る貸し物屋。しかし貸した物が返ってこなかったり、犯罪などに使われては大問題――その上、生来の好奇心と義侠心も手伝って、これまでお庸は様々な客とその貸し物にまつわる事件や騒動に首を突っ込み、解決してきました。
 その対象範囲は、市井の謎から歴とした犯罪、はては亡魂や物の怪が関わるものまで様々(そもそも、生まれずに亡くなったお庸の姉が半ば守護霊状態なのです)。男以上の口の悪さを発揮しつつ、心の内には清五郎への思慕を秘めて、今日もお庸は大奮闘……


 という『貸し物屋お庸』シリーズでしたが、本作は出版社を変え『謎解き帖』となったとはいえ、物語の内容・スタイル的には全く変わらず――いわばシリーズ第五弾というべき作品となっています。
(第四弾のエピソードなどにもそのまま言及しているのにはちょっと驚きました)
 しかし元々が短編連作スタイルということもあり、ここから読んでも全く問題や違和感はなし。貸し物屋という独特の稼業、そしてお庸の尖ったキャラが、かえって初めての読者にも受け入れやすい物語として成立しているのではないかと感じます。

 さて、そんな本作に収められているのは全六話。
 同業者から、長持の借り主の住所氏名がデタラメだったと調べを依頼されたお庸が、長持の中に桜の花びらを見つけたことから景迹を巡らせる表題作「桜と長持」
 遠眼鏡を借りていった若い男の態度に不審を抱いたお庸が用途を探ってみれば実は男はストーカー、しかしつきまとっている相手は実は――という「遠眼鏡の向こう」
 余興のためといって小猿の面を借りていった客の家で妙なことが起きていると知り、調べに向かったお庸が不思議な出来事に遭遇する「小猿の面」
 店で借りられたつぐらが捨て子に使われたと知ったお庸が、赤子が捨てられた長屋の面々と共に親を探す「つぐらの損料」
 嘘をついて歯がちびた下駄を借りていった相手の正体を探る中で、下駄が使われる用途と思わぬ真実が明かされる「ちびた下駄」
 大晦日に、長らく会っていなかった息子と会うために膳と器を借りにきた老人に付き添うことになったお庸が知る真実「大歳の客」

 最初の二編が中編と言ってよい長さ、以降は短編という印象の六話ですが、いずれも共通するのは、ちょっとしたきっかけから始まる謎解きの面白さと、その背後にある人の情・想い、そしてそれに触れたお庸の成長――それを、人情ものからジェントル・ゴースト・ストーリーまで様々な形で、本作は描いていくことになります。

 エピソードの中には、必ずしも完全なハッピーエンドに終わらない、苦い現実の姿を見せるものも幾つかあるのですが――しかしその現実を受け止め、それでも結果を少しでも救いのあるものに変えようとするお庸の姿が、強く印象に残ります。

 そして印象に残るといえば、「遠眼鏡の向こう」以降本作全般で活躍する、そしてこの先もレギュラーになりそうなキャラクターが今回登場します。
 「遠眼鏡の向こう」の内容にも関わるのでここでは詳細は伏せますが、本人だけでなく、所属するコミュニティの存在も含めて(特に後者については、少々理想化されている印象はあるものの、このような形で描かれるのはかなり珍しいのではないかと感じます)、この先も気になる存在になりそうです。


 さて、第四弾までの展開では、どうやらお庸の出自に何やら秘密を匂わせるものが描かれましたが、復活第一作の本作ではそれはお預け。おそらくそれは、今後再び描かれることになるのでしょう。
 再び走り始めたお庸の向かう先を、今度こそ最後まで見届けたいと、心から思います。


『貸し物屋お庸謎解き帖 桜と長持』(平谷美樹 大和書房だいわ文庫) Amazon

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