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2022.05.19

木野麻貴子『妖怪めし』第1巻 料理人兄弟、食で妖怪を鎮める!?

 最近の漫画界では老若男女貴賤上下を問わず、おいしいものを作る/食べる作品が大きなトレンドになっていますが、本作はタイトルの通り、妖怪に(あるいは妖怪が)おいしいものを食べさせようという物語。風変わりな旅の料理人兄弟が、行く先ざきで妖怪と食にまつわる事件に巻き込まれます。

 時はおそらく江戸時代後期、ある目的から旅を続ける料理人兄弟――お人好しで体が頑丈なのが取り柄の忌火と、ひょっとこ顔の子供ながら鋭敏な舌を持つ兵徳の二人は、山越えの途中で見つけた茶屋で、「ヒダル神」について聞かされることになります。
 かつて飢饉で餓死した人々の妄念が凝り、取り憑かれた者は動けないほど激しい空腹に襲われるというヒダル神。しかし握り飯を食べれば逃れられるはずのこの妖怪が凶暴化し、旅人の精気を吸い取って暴れているというのです。

 このヒダル神を鎮めるため、瞬く間に茶屋にあった食材を使って弁当を作ったみせる兄弟。そしてかつてヒダル神を祀ったほこらがあった場所に向かう兄弟に、茶屋の老婆も同行するのですが……

 そんなエピソードから始まる本作ですが、なるほど、料理を食べる相手は空腹、空腹で妖怪といえば――というわけでヒダル神というチョイスには納得できるものがあります。
 ヒダル神に襲われた場合、なにか食べ物を口にすれば助かるというのは定番ですが、しかし本作のヒダル神は故あってパワーアップ版、おにぎりでは足りず――というわけで、兄弟のスペシャル料理の出番と相成る展開も納得です。

 この辺り、妖怪ものでありつつも、調理シーン、そして料理を味わうシーンの描写や台詞回しが、いわゆる「料理もの」のそれなのがちょっと面白いのですが、妖怪を鎮めるのに食を以てするというのは、確かにこれまでほとんどなかったパターンかと思います。


 そして第二話では食べ物関連の妖怪ということか豆富小僧が登場。手にした豆腐を食べると体にカビが生えるなどと言われる豆腐小僧ですが――本作ではやはり暴走・パワーアップして、人間がカビどころではない大変な状態になってしまうのに対し、兄弟が料理で挑むことになります。

 さらにこの巻のラストの第三話では、口にこんにゃくを咥えて橋の上に現れるというこんにゃく橋の幽霊が――と、まことに失礼な言い方ながら、えらくマニアックというかローカルな妖怪の登場に仰天させられます。
(これは本作の監修の妖怪研究家・木下昌美が、この妖怪が現れたという奈良で活動している影響も大でしょう)

 元々この妖怪(幽霊)は、こんにゃくのことが原因で争った末に死んだ妻が化けて出たものと言われますが――ある意味謎多きこの設定を、本作は幽明境を異にする夫婦の愛を描く物語にアレンジ。
 これまでのエピソードでは、主人公兄弟が妖怪に飯を食わせる話でしたが、今回はそれとは異なり――と、物語のバリエーションとしても実に面白いところです。
(個人的には中盤以降の一捻りの内容が、この妖怪の目撃者の職業をベースにしたと思しきものになっているのに感心しました)


 さて、このように第一巻では三つのエピソードが収録された連作スタイルの本作ですが、その縦糸となるのが、兄弟自身の物語であります。
 実は兄弟は半ば妖怪というべき存在――過去のある事件で呪いをかけられてそんな身の上になってしまった二人は、その呪いを解くために、呪いをかけた相手を探しての旅の途中なのです。

 そしてその呪いをかけた相手と思しき存在は、比較的早い段階で登場するのですが――本作に登場する妖怪たちとはちょっとデザインラインが異なるこの妖怪(といっていいのか?)は何者なのか、そしてやっぱり美味しいものを食べて撃退されるのか、だとしたら何を食べるのか……
 少々気が早いのですが、今から気になってしまうのです。


『妖怪めし』第1巻(木野麻貴子&木下昌美 (監修) マッグガーデンコミックスBeat'sシリーズ) Amazon

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