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2022.05.02

松浦だるま『太陽と月の鋼』第4巻 師たる「天狗」が語る「敵」の過去

 愛する妻・月を巡り、奇怪な通力を操る者たちとの戦いの渦に巻き込まれた武士・竜土鋼之助の物語――最新巻では彼と月との生活を壊した「敵」というべき土御門晴雄の過去が、その師というべき者の口から語られることになります。晴雄が秘めた恐るべき通力とは、そして彼の求めるものとは……

 奇怪な術者によって妻・月を奪われ、未来を見る通力を持つ旅の巫女・明の助けを借りて、月を追って旅立った鋼之助。しかし市井の占い師や芸人たちが次々と襲いかかる中、逃げるように江戸を飛び出した二人は、小塚原刑場でさらに恐るべき敵と遭遇します。
 その敵――あらゆる虫を操る女・斑の攻撃に苦しめられる中、月を護るために金属を操るという通力に目覚めた彼は、辛くも斑を撃破するも、力を使い果たして倒れることになります。それを助けた明も自分の通力が暴走したところを、二人組の売卜に救われ……

 と、未来を見通す通力を発現させた明が、「現代」を目撃するという印象的な場面で終わった前巻ですが、しかしこれは人の身には過ぎたる力。あまりの情報量ゆえか、壊れかけた彼女の心を救ったのは、売卜たちの師匠と呼ばれる存在――人の身ながらどこか天狗めいた印象を与える一人の男でした。
 その男の名は、高山嘉津間……

 ときて、おおっ! と身を乗り出す方は、あまり多くないかもしれません。高山嘉津間とは、またの名を寅吉――天狗小僧寅吉と呼ばれ、平田篤胤がその言葉を聞き書きした『仙境異聞』は、数年前に話題になりましたので、こちらはご存知の方も多いと思います。
 幼い頃に神仙(天狗)に伴われて山中で修行、異界などに赴き、帰ってきたという寅吉。高山嘉津間というのは、彼が師から与えられた、いわば天狗としての名であります。(ちなみに本作の嘉津間には、『仙境異聞』の挿絵の面影があるのも楽しい)

 さて、この嘉津間に救われた鋼之助と明は、嘉津間が壺中天と称する壺の穴を通じて、常陸にある結界の中の彼の隠れ家に誘われることになります。そこで二人は、嘉津間から「敵」である土御門晴雄の過去とその力を聞かされることに……


 というわけで、実にこの巻のメインとなるのは、嘉津間と晴雄の物語であります。
 晴雄の父であり陰陽頭である・晴親に招かれ、京の土御門家を訪れた嘉津間。彼がそこで見たものは、己の強すぎる通力を暴走させて苦しむ気弱な少年・晴雄の姿でありました。晴親の依頼で、晴雄にその力との向き合い方を教えることとなった嘉津間は、晴雄を常陸の岩間山に誘うことになります。

 これまで、わずかな場面で描かれた晴雄は、十代半ば(ちなみに今回、嘉津間の語りによって設定年代が明らかに)という若さながら、ひどく落ち着いた、得体のしれぬ器の大きさを感じさせた人物。一方、ここで描かれる彼の姿は、その数年前とはいえ、年相応というにはいささか幼すぎるものがあります。
 その間を繋ぐものが、ここで嘉津間の口から語られるのですが――しかしこの巻から垣間見えるのは、己の強すぎる力に戸惑い、周囲からの疎外感を感じつつも、自分と同様に(そして嘉津間もかつてそうであったように)疎外される通力を持った人々にとっての「星空」でありたいと望む、純粋な少年の姿なのです。

 その姿たるや、同様の経験を持つ明が「ついつい晴雄さまの肩を持っちまうなあ」と語るほどなのですが――しかし彼の元服が近付くにつれて、晴雄の行動には不審なものが現れ、嘉津間を戸惑わせることとなります。
 はたしてその背後にあるものは何か? それはまだわかりませんが、この巻でほのめかされるのは、かつて晴雄が施したという泰山府君の法が絡んでいるということ。この法は確か……


 と、鋼之助たちはほとんど聞き役に回っていたこの巻ですが、もう一つ描かれることとなったのは、月の秘めた恐るべき力の正体であります。今は鋼之助の命を人質のようにして、晴雄の腹心・夜刀川に伴われ、「各地の」殺生石を巡ることを強いられている彼女ですが、そこで命じられた殺生石の封印を解くとは……

 その中で描かれる彼女の力とそれが齎すものには、まさか!? と驚くほかないのですが、しかしそれ以上に謎なのははたして殺生石を解くことが、晴雄の目的と一体どのように繋がるのか、ということでしょう。

 何はともあれ、月と、ある意味それと正反対の力である明と、晴雄と――月と太陽そして星、はたしてその繋がりはこの先どのような形で描かれることになるのか。そしてその中で鋼之助はどのような役割を果たすのか?
 謎だらけで始まった物語は、ようやくその真の姿を見せ始めたように感じられます。


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