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2022.06.03

正子公也&森下翠『絵巻水滸伝 第二部』田虎王慶篇1 対田虎開戦 燃えよ梁山泊魂!

 『絵巻水滸伝』第二部もいよいよ佳境、田虎王慶篇の開幕であります。遼国との激突に勝利したのも束の間、朝廷の思惑で和議が成立し、向かう先を見失った梁山泊に下されたのは河北の田虎討伐の命。「同類」とも言える田虎との対決に臨む梁山泊が見たものははたして――梁山泊魂が燃え上がります。

 招安後の初の戦いとして、南下を開始した遼を迎え撃った梁山泊。激闘の果て、遼の守護神・兀顔光を破り勝利を飾った梁山泊ですが、その直後に宋の朝廷は遼との和議を決定――彼らの戦いは思わぬ形で終結し、燕京を基点に独立を狙う呉用の計画も水泡に帰するのでした。

 さらに追い打ちをかけるように、梁山泊の好漢たちをバラバラに各地に追いやり、個別に始末するという、どこかで見たような謀を巡らせる高キュウ。しかしそこに田虎軍の東京侵攻が始まったのは、天の助けというべきでしょうか。
 はたして今度は田虎討伐を命じられることとなった梁山泊ですが――遼国戦の恩賞もほとんど出ないままというのはともかく、対外戦争であった遼国戦とは違い、彼らにとっては「同類」である田虎との戦いは、何とも意気の上がらないものといえるでしょう。

 しかし田虎の勢力圏に近づいた梁山泊の面々が見たものは、救いを求める民衆の姿。恣に略奪や暴行を繰り広げる田虎軍に財や親しい人々を奪われ、それを討伐する官軍は役に立たないどころか、賊のものと称して人々の首を狩り集める――そんな地獄に苦しみ、息を潜めて隠れてきた人々が、梁山泊に救いを求めてきたのであります。
 そんな人々を前にして、好漢たちが黙っていられるはずがありません。血の気の多い面々だけでなく、普段は冷静な李応までが強い怒りを見せる(それがいわゆるノーブレス・オブリージュの点からなのもらしくてイイ)など、俄然闘志を燃やした梁山泊は、田虎軍撃滅のために動き出すことになります。

 官軍から支給された地図がいい加減で全く役に立たないという椿事があったものの(それに気付くのが地元出身の施恩や張青という捻りも嬉しい)、陵川、さらに高平を一日のうちに陥としてみせた梁山泊軍。しかしそこで思わぬ事態が発生することになります。
 先に述べたとおり、田虎の暴戻と官軍の無策に苦しめられてきた二つの街の人々。日々の食事にも事欠く有様の民衆に、まさしく旱天の慈雨の如く食料を支給する梁山泊ですが――しかしそのあまりの多さに、やがては兵糧にも影響が出かねない状況となってしまったのです。

 それではどうするか? その難問の答えは、まさしく梁山泊ならではのものであります。
 ――そう、田虎に与して庶民を苦しめる貪官汚吏からいただく!

 いやはや、破天荒のようでありながら、実に梁山泊らしいこのやり方、作中で燕順が言うとおり、「〝梁山泊〟はこうじゃねえとな!!」と快哉を挙げたくなる痛快な展開であります。
 そしてここで「おとなしい仕事」に、水を得た魚のように精を出す顔ぶれが、本職のメンバー――大規模な戦ではちょっと出番が少なめになってしまう元山賊組なのも、何とも楽しくなってしまうのです。


 田虎軍との戦いの始まりとともに、梁山泊と他の賊徒との違いをこれ以上無いほど明確に描いてみせたこの第一巻。しかし戦いはまだまだ緒戦、この後には、東京攻略の先鋒である田虎軍の「枢密使」鈕文忠と四威将が守る蓋州攻略戦が待っています。
 そしてこれまでも燕青を助けてきた謎の男・許貫忠が燕青に託したものは何か、そして田虎篇といえばこの人というべき、あの美少女も暗躍を始め、物語はこれからが本番というべきでしょうか。


 ちなみに本作では家族を人質にとられ、心ならずも田虎に協力していた陵川の耿恭。蓋州に捕らわれた家族の安否を気遣う彼を見て、黄信が昔の自分を思い出すと語るのは、いい話のようでいて非常に不吉なフラグでは……


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 「絵巻水滸伝」第2巻 正しきオレ水滸伝ここにあり
 「絵巻水滸伝」第3巻 彷徨える求道者・武松が往く
 「絵巻水滸伝」第四巻 宋江、群星を呼ぶ
 「絵巻水滸伝」第五巻 三覇大いに江州を騒がす
 「絵巻水滸伝」第六巻 海棠の華、翔る
 「絵巻水滸伝」第七巻 軍神独り行く
 「絵巻水滸伝」第八巻 巨星遂に墜つ
 「絵巻水滸伝」第九巻 武神、出陣す
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