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2022.06.20

仁木英之『モノノ怪 執』(その三) 作品世界への新たな風となったスピンオフ

 アニメ『モノノ怪』のスピオンオフ小説『モノノ怪 執』の紹介のラストです。今回は「饕餮」「ぬっぺらほふ」の二話をご紹介いたします。

「饕餮」
 九州・月ヶ瀬藩の三老と呼ばれる家柄ながら、かつての島津家との戦いで両親をはじめとする多くの親族を喪い、落魄した山中家の若き当主・甚次郎。同年代の若衆の中でも浮いた存在である彼は、父祖が命を落とした古戦場に、饕餮と呼ばれる怪異が出没すると聞かされ、逆に興味を覚えます。
 国替えとなる先についていくことを認められず、憑かれたように父祖たちの活躍の痕跡を古戦場で求める甚次郎。彼は饕餮によって父祖の最後の戦いを見せられるのですが……

 これもある意味歴史・時代小説の一典型というべき、地方の小藩もの(?)といった趣きのある本作(舞台となるのが九州の月ヶ瀬藩なのは、このサブジャンルの名作である葉室麟『銀漢の賦』のオマージュでしょうか)。
 このサブジャンルの定番として描かれるように、地方に暮らす若者の鬱勃たる想いが中心となる本作ですが、それがモノノ怪に憑かれ、過去の記憶に惑溺する主人公の姿として描かれるのは、本作ならではでしょう。

 何が真であるのか、二転三転した末に甚次郎が掴んだ想いと、それの果てのモノノ怪との戦いの有様が不思議な感動を呼びます。


「ぬっぺらほふ」
 かつて母と姉が行方不明となり、今は父・忠義の叱咤激励の下、大奥に入るために日夜文武に励む楓。刻苦の末、若年寄・堀田掃部に気に入られ、書院番組に抜擢された忠義は、楓の大奥入りへの口利きの条件として、掃部からある怪異退治を命じられるのでした。
 本郷の加賀藩邸近くに現れるというぬっぺらほふ――見目よい男女が通ると置いてけと袖を引く、目鼻も口もない妖――をおびき寄せるため、父に協力する楓ですが……

 ラストを飾る本作に登場するのはぬっぺらほふ――作中でも言及されるようにのっぺらぼうの異称であり、同時に目鼻もない肉の塊であるぬっぺふほふを連想させる名のモノノ怪であります。(のっぺらぼうといえば――それは後で触れます)

 あまりに酸鼻な過去の一幕から一転、どこかコミカルさすら感じさせる姿で大奥入りを目指す楓を中心に展開していく本作ですが、そんな彼女の心の隙間とモノノ怪が出会った時に何が起こるか……
 胸が悪くなるような過去の事件の真相(これはこれで「らしい」という気もします)と、ある意味ストレートなモノノ怪の真と理を描きつつ、そこから楓との関係性で一捻り加える展開にも唸らされます。

 ちなみに「のっぺらぼう」といえば、アニメ『モノノ怪』のエピソードの一つ。「家」に押しつぶされ、自分というものを喪った女性を描いた物語でしたが、さてそれとよく似たタイトルの本作は――その結末には大いにギョッとさせられると同時に、なるほどと納得させられるのです。


 以上全六話――『モノノ怪』という作品の新たなエピソードとして違和感ない内容であると同時に、歴史・時代小説の文法で『モノノ怪』という作品を捉え直す試みとして、大いに楽しませていただきました。(ただ数カ所、用語の使い方の点でちょっと不思議な部分があるのですが、これは意図的なものなのでしょう、やはり)
 第一話で触れたように、薬売りを狂言回しとして展開したアニメ『モノノ怪』とは異なり、各話の主人公を中心に、その視点から展開する内容も、スピンオフとしてみれば、納得がいくものであります。

 また、これは以前作者の『くるすの残光 最後の審判』の文庫解説を書いた時に感じたことですが、作者の作品には、超越者の力による救済を以て事足れりとしないという印象があります。
 その点は、『モノノ怪』という作品の構造と――最終的には薬売りの退魔の剣によるものの、単なる力押しではモノノ怪は倒せず、人の心に関わるモノノ怪の真と理を解き明かす必要があることと、想像以上に相性が良かったと感じます。
(というのは牽強付会に過ぎるかもしれませんが……)

 願わくば、『モノノ怪』という作品世界に新たな風を吹き込んだこのスピンオフの続編も、ぜひ読みたいと思います。モノノ怪が人の世にある限り、薬売りはいつでも、どこにでも現れるのですから……


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