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2022.06.21

高橋留美子『MAO』第13巻 彼女の死の謎 彼女の復讐の理由

 御降家の後継者を巡る九百年前からの暗闘と、大正時代に御降家を復興しようとする白眉たちとの戦いと――先の見えない二つの戦いが続く『MAO』。この巻ではその始まりの一端というべき、紗那の死を巡る真実が描かれます。そして表紙を飾る白眉の配下・芽生の過去も……

 御降家の呪い(とは別の理由で?)平安時代から生き続ける夏野が、何者かの命で集める体のパーツ。その最後の一つである右腕を、何と猫鬼が現代で、あの菜花の運命を変えた事故現場で発見、御降家の五色堂の地下に眠っていた謎の男のもとに持っていく――という、不可解かつ衝撃的な場面で終わった前巻。
 ここで体の全てが揃い復活した謎の男は、しかし精神は復活していないのか、人事不省のまま歩み去り、一旦物語から姿を消すことになります。

 それに変わって描かれるのは、摩緒たちの師匠――御降家の当主の娘・紗那の死の真実。これまで摩緒に濡れ衣が着せられていたその前後の事情が、ようやくここで整理されることとなります。
 そのきっかけとなったのは、紗那を殺したのが誰か知りたくないかという百火への夏野の言葉。彼女に託された火の呪具・睨み火で陸軍兵舎を狙い(これはこれでいい度胸)、白眉をおびき出さんとする百火の策は当たり、夏野・百火・摩緒・菜花の前に白眉が現れます。

 そもそも、摩緒が紗那を殺したと言い出したのは白眉。しかし実際には摩緒は殺していないわけで、だとすれば白眉が嘘をついていることは間違いありません。そして夏野は、邪気が紗那を殺したと語るのですが、邪気を操るといえば……
 そう、幽羅子であります。かつて幽閉されていた屋敷を抜け出した時に摩緒と出会い、それ以来彼を慕っていた幽羅子。だとすれば、彼女が嫉妬心から摩緒と結ばれる紗那を殺しても不思議ではありません。そして白眉もそれを認めるのですが……

 しかし本当にそれが真実なのか、わからないのが本作の恐ろしいところ。現在のところ確かなのは、白眉が幽羅子に――ありのままの彼女に惹かれているということだけのように思われます。それも、怒らせて平手打ち食らってニヤニヤするような、ちょっとまずい感じの形で……

 そしてさらに百火の口から語られるのは、実はその晩に宝物殿を焼いたのは、紗那の頼みで動いた百火であったこと、そしてそこで殺されていた師匠の手の中から、青い光の玉が飛び去ったという事実。
 はたして師匠は誰が殺したのか、そして青い光の玉とは――一つ謎が解けたと思えば二つ謎が増える。まだまだ本作の闇は深そうです。


 さて、この巻の後半では、芽生を巡る物語が描かれることになります。不知火の館の延命の庭を守る芽生は、一見常に笑みを絶やさない物柔らかな美少女ですが――しかし庭の中に掘られた穴に人間たちを落として争わせ、その怨念を集めるという人間の蠱毒というおぞましい呪法を行っているのですから、常人であるはずもありません。

 それではそんな彼女が呪術に手を染めた理由は――不自然な旱魃が起きた村に現れて雨乞いをするという少年・流石の登場がきっかけで、彼女の過去が語られることになります。
 その村に乗っ取り屋(いわゆる地上げ屋)が現れたと知った芽生と蓮次、そして呪術の存在を感じ取った摩緒と菜花――それぞれ村に向かった両者を待っていたのは、かつて芽生を襲った悲劇の張本人であり、そして芽生が人間の蠱毒を行う理由だったのです。

 ここで語られる過去を見れば、彼女の行為には一定の正当性があるといえるでしょう。しかしそれは、蓮次が復讐から始まり金目当ての暗殺者と化したように、当初の目的を超えて際限なく暴走し、人として引き返せないところまで行きかねないものであります。
 それを助けるのが、いや導くのが御降家の呪具、呪術だとすれば――やはり御降家は存在してはならないもの、終わらせなければいけないものなのでしょう。そしてそれは、前半で語られた紗那の行動の理由と重なるものでもあるのです。


 さて、この巻のラストでは、廃屋の祟りを祓うことになった摩緒たちですが、その源である古井戸から現れたのは――はたしてこの存在が物語の本筋と絡むのか否か、相変わらず物語の先は読めません。


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