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2022.06.17

『翔べ! 必殺うらごろし』 第1話「仏像の眼から血の涙が出た」

 行者の「先生」と記憶喪失の「おばさん」が訪れた村では、お堂の仏が血の涙を流し、村人たちはよそ者の仙吉とお鶴の仕業だと信じ込んでいた。先生の霊視でお鶴は仏を遺した巡礼の娘だとわかり、村に受け入れられた二人だが、香具師一味が二人を惨殺、仏を奪う。霊の無念の声を聞いた先生は……

 必殺シリーズでも異色作中の異色作として知られる『翔べ!必殺うらごろし』――今回時代劇専門チャンネルで放送が始まったこともあり、これから全話紹介したいと思います。
 毎回種も仕掛けもない超常現象が発生し、それに絡んで物語が展開していく本作ですが、それは第一話の今回も同様。ある村で起きた仏像が血の涙を流すという怪異にまつわる因縁と、それと並行してチームの集結が描かれることになりますが、どちらもアクの強い内容(キャラ)がうまく絡み合っているのに感心させられます。

 冒頭で描かれるのは、先生とおばさんの出会い。どちらも必殺中では異彩を放ちまくるキャラクターですが、偶然二人が言葉を交わすうちにおばさんが四年前から記憶喪失であること、使い込まれた匕首を持っていることが語られ、そこから先生の超能力でおばさんに子供がいたことが判明――と、結構ややこしいおばさんのキャラがサラッと冒頭で紹介されてしまうのが巧みであります。
 一方の先生は、超能力を持っている修行中の行者であること位しかわからないのですが、まあそれが全てのようなものなので……

 そしてもう一人「若」は、村人たちがお鶴たちを無理やり追い出しにかかったところに通りすがって村人たちを叩きのめし、仙吉の話を聞いているうちに惚気に苛立って立ち去る――というくだりから、霊視で血の涙の由来を解き明かした先生に弟子入り志願、しかし拒否されてふてくされて、おばさんに正面から説教され(ここで全く物怖じせず正面から怒るおばさんがイイ)、そして先生に実は女と看破され自分の過去を語るという、こちらも淀みなくキャラが紹介されていきます。

 あと二人、正十とおねむは――こちらはサポートなのでそこまでではないのですが、正十に対しておばさんが「この人、江戸で殺しの斡旋業してた人だ」と言い出し、『新・必殺仕置人』等の正八との関係を(そして自分の過去も)匂わせるのは、心憎い演出です。

 さて、今回の超常現象は、先生の霊視によって、かつて村で行き倒れた女巡礼が遺した仏が生き別れた赤子を想って血を流していたものであり、実はお鶴こそが、村人たちが持て余して川に流した赤子だったということが判明するのですが――この事実だけでもちツラいところがあるものの、むしろそれ以上に印象に残るのは、事実がわかる前の村人の反応でしょう。
 実は廓から足抜けしてきたために素性を隠しているお鶴たちを疑い、彼女たちが水子の霊を操って自分たちを害しようとしていると全く根拠なく決めつけ、追い出しにかかる――というよりほぼリンチにかけようとする群集心理は、まさに村八分のメカニズム。これでもかと描かれる閉鎖的な地方の陰湿さには、何とも重い気分になります。

 一方、今回のターゲットである香具師一味もかなりの外道で、女亡者役の芸人が、腹を減らして自分たちの飯をつまみ食いしたのに怒り、せせら笑いながらリンチにかけてあっさり殺害する初登場シーンは実に胸が悪い。
 そして新たな見世物のネタとして血の涙を流す仏に目をつけ、お鶴と再会したことで仏が涙を止めたと知ってお鶴たちを惨殺。仏を奪うという、まさに血も涙もない所業に出るのですが――この金のために他人の命をあっさり奪う辺りは、一種都市的な悪の姿という印象で、一話で地方と都市、双方における人間の負の部分を見せられた思いであります。

 さて、そんなモヤモヤを吹き飛ばすべく(?)繰り広げられるラストの仕掛けは、おばさんが先陣を切って登場。仏を持っている香具師の手下を「ちょいと、落としたよ」と後ろから呼び止め、怪訝な顔をして近付いてきたところに「これから落とすんだよ」「お前さんの――命だよ!」と匕首でブッスリ!

 続いて先生が旗竿片手に斜面をものすごい勢いで駆け下り、三人一列に突っ込んでくる相手を人間離れした大ジャンプで飛び越すと、一番うしろにいた香具師の親分を旗竿で串刺し葬! さらに襲いかかる用心棒の刀を素手でへし折ると、無造作に捕まえて岩場に放り投げ、頭から投げ殺す!
 そして若が残る一人に殴る蹴るのプリミティブな暴力コンボ、とどめはパンチで180度顔面回転のFATALITY!

 太陽から力を得る先生の能力上、陽の光の下で行われるという異色の仕掛け――しかし明るさの欠片もないその姿は、まさに外道への制裁というべきでしょうか。
 何はともあれ、成り行きながら結成されたこのチーム。そのまま先生の足の赴くまま、未知の世界への旅が始まることになります。たとえ、あなたが信じようと信じまいと……


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