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2022.06.18

仁木英之『モノノ怪 執』(その一) 時代小説の文法で描かれた『モノノ怪』

 十五周年ということで、にわかに慌ただしくなってきたアニメ『モノノ怪』周辺。その先陣を切る形となったのが、このスピンオフ小説『モノノ怪 執』であります。全六話が収録された本作を担当したのは、なんと歴史・時代小説でも活躍する仁木英之。はたして小説で描かれる『モノノ怪』の世界とは……

 2006年、オムニバス『怪 ayakashi』の一編「化猫」で初登場した薬売り。奇抜な化粧と衣装で身を飾ったこの美青年、モノノ怪の気配があるところに、場所・時代を問わずどこからともなく現れては、その形・真・理を見顕して退魔の剣でモノノ怪を斬る、奇妙なゴーストハンターであります。
 この薬売りのキャラクター、和紙のテクスチャを用いた美術、そして怪異の陰の人の心の綾を巧みに織り込んで二転三転するミステリアスな物語が受けて、2007年には『モノノ怪』として五つのエピソードが放送されることとなりました。

 以降、ファンの間では続編を求める声が根強くあったのですが――十五年間沈黙を守った末(その間、蜷川ヤエコによるアニメに忠実な漫画版がありましたが)、今年動きを見せ始めたのは冒頭に触れたとおりであります。
 そして本作は仁木英之による小説ですが、なるほど『僕僕先生』をはじめとする壮大なファンタジー、『くるすの残光』などの伝奇時代小説、人情ファンタジー『黄泉坂案内人』、さらには文アルのノベライズ等を手がけた作者は、うってつけかもしれません。

 私も『モノノ怪』ファン、仁木英之ファンとして大いに本作を楽しみにしていたのですが、その期待は裏切られることはありませんでした。以下、全六話を一つずつ紹介していきましょう。


「鎌鼬」
 新年、管狐の加護を得たという奥三河の村の庄屋のもとを訪れた三河万歳の門付け芸人・徳右衛門。同じく訪れていた熊野神人、傀儡師、角兵衛獅子、そして薬売りとともに宴席に招かれた徳右衛門ですが、自分たちが客間から出られなくなっていることに気付くのでした。
 そこに現れて昨年家宝の管が盗まれたと語ると、最も優れた芸を見せたものが座敷を出て富を得ることができると告げる屋敷の主。かくて、芸人たちの芸比べが始まることに……

 「御久」の文字が見えるような気がするこの第一話。中心となるのが閉鎖空間に閉じ込められた人間たちのエゴのぶつかり合いという、ある意味『モノノ怪』らしい展開が描かれることになりますが――そのぶつかり合いが異能の芸人たちの技比べの形で描かれるというのは、映像で見てみたいと感じます。

 しかし興味深いのは、舞台背景や徳右衛門たち芸人の技の内容や由来を、本作が丹念に史実・現実を踏まえて描いていることでしょうか。アニメの『モノノ怪』は、特に無国籍的とすらいえるようなその美術や設定において、意図的に時代考証との距離感を醸し出していた一方で、本作は、時代小説の文法で『モノノ怪』を書いたという印象があります。
(もっとも、続くエピソードを読んでみれば実は本作が一番アニメに近いという印象なのですが……)

 その意味では確かにスピンオフを感じさせる本作ですが、もう一つ、本作においては完全に徳右衛門視点で物語が進行し、薬売りは完全に傍観者であり、アニメで時折見られた人間味も極力抑え気味という印象があるのも、面白いところです。
 あの決め台詞が登場しないのには最初驚かされましたが、これもまた、スピンオフゆえというべきでしょう。もっとも、芸人たちの中にちゃっかりと混じっていたり、意外に(?)芸達者なところを見せたりと、やっぱり薬売りは薬売りだと思わされるのですが……

 結末とそこに至る過程に、どこかスッキリとしない、考える余地を残す内容といい、実に『モノノ怪』らしい第一話だったというべきでしょうか。


 第二話以降は次回・次々回に紹介いたします。


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