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2022.06.27

宮野美嘉『あやかし姫の良縁』 幸徳井の娘と柳生の男と――表裏一体、運命のロマンス!?

 関ヶ原の戦の前年、陰陽師の名門・幸徳井家出身のとんでもないヒロイン・桜子が大暴れする、ユニークな時代ロマンであります。京を騒がす百鬼夜行と、柳生友景なる青年の婿入りと――桜子の周囲で起きる二つの事件は意外なところで繋がり、彼女の人生に大きな影響を与えることに…

 安土桃山時代の今に至るまで陰陽師を輩出してきた幸徳井家のひとり娘・桜子。父親は知れず、母親は亡くなり、祖父に溺愛されて育った彼女は、生まれついての神通力と剛力で周囲を驚かせてきました。
 十五歳になった今では、彼女は京に巣食う妖たちに懐かれてほとんど頭領状態、今日も暴走して人を襲う妖を思わず殴り殺し、陰陽道の師匠(である謎の陰陽師の亡霊)に散々イヤミを言われる有様であります。

 そんなある日、突然祖父が持ってきたのは彼女の婿の話。剣の家である柳生家の出身にして祖父の弟子であるというその青年――柳生友景にわけもわからぬうちに引き合わされた桜子ですが、当の友景は万事において面倒くさがりでパッとしない男ではありませんか。
 こんな男が自分にとってこの世に一人しかいない運命の相手――自分が何をしても壊れない相手のはずがないと腹を立てる桜子ですが、友景はのれんに腕押し、さらに彼女のイライラは募ります。

 そんな中、近頃京を騒がす百鬼夜行を追って飛び出した桜子ですが、そこで彼女の身に思わぬ出来事が降りかかります。はたして彼女の運命は、そして祖父や師匠、友景の真意とは……


 柳生家から幸徳井家に養子に入り、同家で初の陰陽頭に任ぜられた幸徳井友景――一部で非常に有名になってしまったこの人物が、主人公の相手役ということで、本作は否応なしに気になる作品でした。
 上記のようにあらすじからすれば、なるほどじゃじゃ馬姫が、第一印象最悪の相手と出会い、色々と反目しながらもやがてはラブラブになる話かな、と思ったのですが――いや確かにそれはそれで間違ってはいないものの――本作はこちらの想像を遥かに上回ったところを行く物語でした。

 これはぜひ実際にご覧になった上で驚いていただきたいのですが――物語のちょうど中盤辺りで桜子に降りかかる運命にまず仰天(え、ここで……? と)、そしてそこからさらに続く桜子の出自と試練、さらに今度は友景の過去と、次から次へと仰天の真実の釣瓶打ちには息つく間もありません。
 ここで描かれる、あまりに過酷かつ異常な二人の運命に打ちのめされるのですが――しかしそれでも、いやそれだからこそ確かに生まれる二人の絆、そして周囲の者たちとの絆は、これはもう純愛と呼ぶしかない、と心打たれました。

 特に(実際にご覧になった上でといいつつ色々と書いてしまいますが)友景のキャラクターはなるほど! といいたくなる造形で、一歩間違えればモラル的にとんでもない存在になりかねないにも関わらず、それでもまさしく桜子とは表裏一体、この世でただ一人のまさしく良縁と納得するしかないのには唸らされました。
(また、桜子の祖父でいかにも喰えない爺である幸徳井友忠が途中で見せる姿にただ涙――台詞の使い方が実にうまい!)


 エピローグにはこれも仰天のどんでん返しが待ち受けていて、最後の最後まで油断のできない本作。いや、このエピローグに至るまで伏線の張り方が非常に巧みで、最後まで読んで、また最初から読み返すと、また物語が違った形で見えてくる作品であります。

 あまりに主人公二人のインパクトが大きすぎて、「敵」の存在が霞んだきらいはありますが、まだまだこの先が描けるだけに、ぜひこの先の二人の姿が見たい――そう思わされた物語です。


『あやかし姫の良縁』(宮野美嘉 小学館文庫キャラブン!) Amazon

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