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2022.06.25

正子公也&森下翠『絵巻水滸伝 第二部』田虎王慶篇3 強襲幻魔君! そして出会う運命の二人

 「晋」を僭称する田虎との戦いもいよいよ佳境。田虎王慶篇第三巻の表紙は、昔からの『絵巻水滸伝』ファンには感慨深い、あの二人――いよいよ運命の二人が出会うことになります。

 情報撹乱のために大将の所在地を隠す田虎軍に対し、許貫忠が残した絵図面によって田虎がいるのは威勝であると知った梁山泊軍。そこで相手の裏をかくべく、陽動として盧俊義が大軍で汾陽を目指す一方で、宋江は少数精鋭で威勝に奇襲をかけることになります。
 途中、要害・壺関を守る山士奇に苦戦しつつも、関勝が旧友の唐斌を説得したことで形勢逆転。本書の前半では威勝の手前の拠点である昭徳城を攻める宋江軍ですが、その前に恐るべき敵が姿を見せることになります。

 その名は幻魔君喬道清――晋の軍師にして護国霊感真人の称号を持つ道士、言い換えれば妖術使いであります。
 その力は、幻魔君の二つ名に表れている通り――生きているような黒い霧の中に李逵たちを包み込んで捕らえ、水と氷を自在に操る力は、混沌の法の封印を解いた樊瑞をも退ける。さらには巨大な金人や五色の竜をも呼び出す――と、幻を自在に操る魔人なのです。

 力自慢の梁山泊の豪傑たちが唯一苦手にしているのが、妖術幻術の類であることは、これまでの戦いで描かれてきたところではありますが、それにしても喬道清は桁が違う。ただ一人で戦況を根こそぎひっくり返す――妖術師の恐ろしさがここで存分に描かれることになります。(そしてその術の由来にも仰天!)

 しかし妖術師が相手であれば、梁山泊にはそれを上回る最強の術者がいます。その力を以てすれば、喬道清を討つことも不可能ではないかと思われたのですが――しかし彼を討ってこの戦いは終わるのか。もはや魔道を行く彼を救うことはできないのか……
 ある意味、敵を倒すよりも難しいことを成し遂げたものがなんであったか。盧俊義との激闘の末に敗れた彼の親友・唐斌ともども二人の豪傑の心が辿り着いた場所は、この血で血を洗う死闘の果ての、一つの希望と感じられます。


 さて、一つの死闘が終わった先に描かれるのは、あの復讐の美少女・瓊英の本格始動であります。

 幼い頃に田虎に父を殺され、母を奪われた瓊英。以来、忠僕の葉清に支えられつつ、復讐の牙を研いできた彼女は、田虎の国舅である鄔梨に接近してその養女に収まるのですが、これはまだ序の口であります。
 鄔梨に毒を盛って力を奪い、彼に代わって戦場に立つ瓊英。そこで功名を上げて田虎に近付き、復讐を果たす――冷静に考えれば水滸伝でも屈指のハードな復讐の人生を送る彼女ですが、しかし彼女が功名を上げるということは、梁山泊を倒すということであります。

 現に緒戦では、女には色々な意味で滅法弱い王英と、水滸伝の元祖娘武芸者というべき扈三娘が、あわやというところまで追い詰められたのですが――しかし本来であれば瓊英と梁山泊は田虎を敵にするという点では同志であるはず。
 そしてこの両者を、奇縁が結びつけることになります。

 偽名で鄔梨のもとに潜入した安道全と、その弟子を装うことになった張清。この張清と瓊英の出会いこそは、まさに運命の出会いというべきものでしょう。
 強引に鄔梨の妻が瓊英の婿選びをしていたところに居合わせ、彼女と武術の手合わせをすることとなった張清。瓊英が放った礫を受け止めた張清は、その礫で以て彼女の第二弾を弾き――ここに礫で結ばれた二人が出会うこととなったのであります。
(その直後、張清の「求婚」の際に、張清といえば何かと組まされるアイツが間接的に役立つのに思わずニッコリ)

 もちろんこの時点での二人はいわゆる契約結婚(?)、真実の夫婦ではないのですが――しかし頑なな瓊英の心を、物柔らかな張清の心が受け止め、礫投げの練習を通じて少しずつ二人が心を通わせていく様は、それまでの瓊英の生き様が苛烈だっただけに、ひどく暖かいものとして心に残ります。
 そしてここで明かされる張清の過去が、瓊英に対する一つの決意に繋がっていくのも巧みで――いつか二人が真に結ばれる日が来るのを、心から祈りたくなるのです。


 いよいよ田虎の本拠・威勝も目前。その前に現れた三眼の怪人・馬霊の、これまでとは全く異なる妖術に苦戦しつつもこれを退けた梁山泊に敵はないように思われますが、さて……
 いよいよ次巻、田虎戦の完結であります。


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