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2022.06.08

松井優征『逃げ上手の若君』第6巻 新展開、逃者党西へ

 逃げて逃げて(作中時間で)早くも二年が経過した『逃げ上手の若君』。信濃を舞台とした合戦を経て、結束を固めた諏訪神党の決起の時は近い――と思われたところに、次々と新キャラが顔を見せることになります。さらに足利の手が迫り、時行たちは一転京に向かうことに……

 帝の命により親北条勢力討伐を開始した国司・清原信濃守と守護・小笠原貞宗に対し、総力を挙げて戦いを挑んだ諏訪神党。諏訪頼重直属の諏訪神党三大将も加わっての激闘の中で、時行と逃者党は伝令の役目を与えられ、戦場を駆けることになります。
 目まぐるしく変わる戦況は、最終的には諏訪神党が撤退、大きく領地を奪われたものの将クラスは誰も討ち取られず、かえって結束を固める結果となったのでした。

 そんな戦いの後、この巻の冒頭で新たに登場するのは「神」――諏訪の現人神の座を継いだ諏訪頼継。頼重の子・時継のそのまた子、つまり頼重の孫であります。
 頼重、孫がいるのにあんな感じなの!? とドン引きしたのはともかく、頼継は時行よりもさらに幼い少年。そんな頼継にとって、時行は自分の祖父たちの関心を自分から奪っていった憎い相手――というわけで、諏訪追放をかけた勝負を挑んでくるのですが……

 が、その勝負が、自分が逃げる側とはいえ鬼ごっこなのはマズかった。この勝負はあっさり決着するのですが、しかし自分も父親のように頼重を慕う時行にとっては、頼継は兄弟のような存在。そんな共通点もあって二人は心を通わせ、時行には新たな味方(?)ができたようです。


 そして次なる新顔は、何と北条家の生き残り、時行の叔父の北条泰時。この泰時、一門が皆自決した時に一人生き延びてきた――というのはさておき、思っていることが全て顔に出てしまう面白叔父さんであります。

 しかしこの状況下で鎌倉を脱出し、東北で残党を糾合して二年間戦ってきた人物が、単なる面白キャラであるはずがありません。
 なるほど戦闘力は大して高いわけではありませんし(しかし弧次郎とどっこい――これはむしろ弧次郎が低いのか)、馬鹿にされたら殺すの鎌倉武士とは思えないほどプライドは低い。

 それでも、色々な意味で生き残りのために全振りしたかのようなスキル構成は、彼もまたこの時代の武士なのだな、と感心させられるのです。(そしてこういう武士のバリエーションを出して作品そのものも)

 さて、何やらデカい計画を考えているらしい泰家の登場で前進したかに見える北条家復興ですが、しかしもちろん敵はこの国を掌中に収めようという相手だけに、このままうまくいくはずもありません。
 泰時の諏訪来訪と時を同じくして風間玄蕃の前に現れた不気味な天狗面の男。彼こそは足利直属の忍集団「天狗衆」――かつて尊氏の挙兵時に京の情報を迅速に伝達し、新田義貞の鎌倉攻めを助けたとも言われる相手の出現に、もはや安全ではなくなった諏訪から、時行は離れざるを得なくなります。

 そこで彼が向かう先は京――折しも泰家が「計画」の打ち合わせに向かうのに合わせ、時行は逃者党とともに京に入ることに――というわけで、この巻のラスト1/3からは京での物語が始まることとなります。


 ――が、京に入ったと思えば(調子に乗った玄蕃が博打で身ぐるみ剥がされたので助けるために)いきなり双六勝負が始まることになります。
 そしてその相手となるのは、人様にざぁこざぁこ言うようなイキった上に奇天烈な服を着た少女・魅摩。しかしやたらと婆娑羅なのも道理、なんと彼女の父は元祖婆娑羅なあの人物なのですから――間接的とはいえ、いきなり京らしい大物登場であります。

 それはさておき魅摩は神力の使い手、しかも双六では時行が力を発揮する場もない――というわけで、ここで出番が回ってきたのは、頼重の娘である雫。しかし同じ神力の使い手とはいえ、格上の相手を前に明らかに分が悪い……
 と思いきや、えっ君たち一体何してるの? と唖然とするような戦法を繰り出す雫。もう公式が薄い本になったような展開ですが、これまで弧次郎や亜也子にスポットが当たってきたように、ここで雫にスポットが当たるのは納得ではあります。


 何はともあれ思わぬ緒戦をくぐり抜けた時行たちですが、最初がこれではこの先何が待っているか予想もつきません。個人的には、これまで名前しか出ていない楠木正成の存在が気になるところですが――さてこの先どうなるか。この先の展開にも期待できそうであります。


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