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2022.06.30

霜月かいり『アーサーブライト』 転生木村重成と円卓の騎士の聖杯探求

 『BRAVE10』で真田十勇士と幸村を描いた霜月かいりが描く本作の主人公は、幸村とともに大坂の陣を戦った木村重成。しかし重成が活躍する舞台はブリタニア――古代イギリス! 何と彼の地に転生した上にアーサー王と瓜二つだった重成が、主の下に帰るために繰り広げる聖杯探求が描かれます。

 大坂夏の陣の死闘の最中、神速の太刀で無数の敵兵を屠る白備えの美丈夫・木村重成。しかし徳川方との激闘の中、ついに追い詰められた彼が次の瞬間にいたのは、見たこともない異国の地でした。
 そこで一人の鎧武者を追う兵たちを反射的に倒した重成ですが、その直後に鎧武者は横合いからの銃撃で即死。慌てて兜を脱がした重成が見たものは、自分と瓜二つの男の顔だったのです。

 そこに現れた美青年・ランスロットに囚われ、キャメロット城に連れて行かれた重成は、死んだ男がこの城の王・アーサーであったことを聞かされます。そしてアーサーとして生きろと言い出すランスロットに激昂する重成ですが、そこに現れた魔術師マーリンは、重成が元の世界に戻るには聖杯が必要と語るのでした。
 何としても日ノ本に帰ろうとする重成と、聖杯の力でアーサーの魂を重成の体に入れることができると密かにマーリンから聞かされたランスロット。そこに成り行きから城を飛び出したガウェインが加わり、三人の聖杯探求の旅が始まることに……


 幼い頃から秀頼に仕え、大坂の陣ではその武勇で名を残しただけでなく、死に臨んでは身なりを整え伽羅をたき込めていた嗜みが家康を感嘆させたという逸話を持つ重成。そのキャラ立ちからするとフィクションの主人公になってもおかしくない人物ですが、意外なことにその数は非常に少ない状況です。
 その例外である本作ですが、何と一種の転生もの。あの伝説のアーサー王の時代に出現した彼が、そのアーサー王に成り代わり、円卓の騎士たちと聖杯を求めて冒険を繰り広げるというのですから、まず空前絶後の物語と言ってよいでしょう。

 もちろん聖杯が簡単に見つかるはずもなく、「11人の王の証」「聖女の涙」「客人の血」「聖剣」だというのですが――とりあえず「王の証」を手に入れるか、とアーサー王に与しない諸侯のところに向かうというのが物語の主な流れであります。
 そこでやたらとグラマラスな謎の美女・トリスタン(!)と出会ったり、重成以外の転生者と対峙することになったりと、行く先々で波瀾万丈の冒険と死闘を繰り広げる一行。特に転生者については、当時ブリタニアを窺っていたサクソン人の軍師となった「半兵衛」なる謎(いや、我々には誰だか丸わかりなのですが)の男が行く先々で重成の前に立ち塞がることになります。

 また、アーサー王物語といえばこの人、というべきランスロットは、王妃との不義の恋に落ちたりはせず、アーサー王一筋のキャラクター。世の辛酸を舐めてきた末に、理想の主君であるアーサーと出会い――という造形は作者らしいと感じますが、重成が武士であるとすれば、ランスロットは騎士として、ある意味好一対となっているのもユニークなところです。
 しかしランスロットのアーサーへの想いがあまりに一途すぎて、ちょっとこれは――という感じに見えてしまうのも作者らしい気もしますが、この点については後に「やられた!」と思わされることに……


 と、実にユニークな本作なのですが、残念ながら終盤は駆け足になってしまったのが正直なところ。物語で描くべきものは一通り描かれたものの、食い足りなさが残るのは残念に感じられます(特に中盤に登場したあるキャラクターの扱いが、あまりにももったいない……)。
 また、重成ら転生者が何故ブリタニアに転生したのかわからない――というのは言うだけ野暮なのかもしれませんが、その顔ぶれに微妙に統一感がないのも、ちょっとすっきりしないところではあります。

 しかし重成とランスロット――武士と騎士の象徴ともいうべき二人のキャラクターとドラマが、その頂点に達したところで迎えるクライマックスは大いに納得できるところで、すっとぼけた結末も含めて、楽しい物語であったことは間違いありません。


 ちなみに本作の冒頭と第4巻の番外編で登場する幸村は、やはりどう見てもあの幸村で、ちょっと懐かしくなりました。
(それだけに彼に似ているというあるキャラの扱いがちょっともったいないのですが……)


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