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2022.06.05

唐々煙『煉獄に笑う』第14巻 そして三成は往く 曇サーガここに完結

 本作だけで約9年、『曇天に笑う』から数えれば約11年――ついに『煉獄に笑う』完結の時がやってきました。前代未聞の八本首の形態と化したオロチに最後の戦いを挑むのは、天正曇天三兄弟と、秀吉・家康・光秀らの連合軍。持てる力の全てを結集して挑む戦いの行方は……

 真の信長を器としてついに復活したオロチ。オロチ封印の最後の希望、三本の巻物の最後の一本を安土城に突入して見事奪取した佐吉ですが――しかし信長がその意識を残した故か、オロチは牡丹すら知らない形態、八岐大蛇状の怪物に変化するのでした。
 この絶望的な状況下でも、封印の準備に入る牡丹と、彼女を守るべく陣を敷く連合軍。そしてそこに死んだと思われていた芭恋も姿を現し、佐吉・芭恋・阿国の天正曇天三兄弟――石田三成が復活!

 というわけで、今度こそオールスターキャストで臨む最後の最後の決戦が繰り広げられるこの最終巻。
 佐吉・芭恋・阿国の三人(あと後世でいうゲロ吉)に、秀吉・家康・光秀、さらに左近に紀之介(吉継)といった武将たち、百地丹波と浯衛門、桜花と一波、鬼平太、国友の勇真に芦屋弓月と安倍家一門(そしてもう一人)、牡丹――これまでの物語で戦い抜き、生き抜いてきた者たちが恩讐を乗り越えて集うだけで、もう感動的としかいいようがありません。

 たとえほとんど怪獣クラスのオロチの首たちであっても、彼らであれば――と思いたくなる(そして実際どうにかしてしまう)面々が戦う間に、牡丹が死力を振り絞って封印の陣を張る――これで勝利まで後一歩と思いきや、しかし史上最悪のオロチの強さはまだまだ先がありました。
 中心の首が雲を食らった末に全方向に放った熱線(?)によって戦線は一瞬にして崩壊、そしてその首に牡丹と佐吉が飲み込まれてしまったではありませんか。

 そして首の中で佐吉が見たものは、オロチに飲み込まれた安土城の一部と、オロチの中でなおも己の姿を保つ織田信長その人。
 刀を失い、文字通り徒手空拳で信長と対峙することとなりながらも、なおも心は折れない佐吉。そして彼のために芭恋と阿国は、オロチの中に刀を届けるべく奮闘を繰り広げます。あの曇の護り刀を……


 本作において最後の『曇天に笑う』とのリンクというべき護り刀の因縁も登場し、いよいよ終局に向かう物語。しかしそこで描かれたものは――まさか、と言いたくなるような展開であります。ここまで来て、こんなことになるとは――と唖然とさせられる中で、物語は容赦なく展開していくことになります。
 しかしこれもまた、彼らが、石田三成が選んだ道。その果てにある結末であれば、これはもう本作の結末として受け容れるしかない、ということは間違いないでしょう。少なくともエピローグの展開を見れば、だからこその「石田三成」であったか、と舌を巻くしかないのですから。

 そして登場人物それぞれが収まるところに収まったエピローグの最後に待つもの――この『煉獄に笑う』という物語の冒頭にリンクして(今見返すと、絵はもちろん違うものの、台詞は同じなのが感慨深い。だからあのアングルだったのか、とも)描かれる結末には、大きく頷くしかないのであります。

 ちなみにこの単行本は、最終話に連載時に比べて、実に30ページ近い描き足しが為されており、完全版と呼ぶに相応しい内容となっています。ここまでくれば、まさに大団円と呼ぶしかないでしょう。


 冒頭に記した通り『曇天に笑う』から数えて11年、そして単行本総計で24巻という分量となった、この曇サーガともいうべき物語。その中でも本作が質・量ともにその中核を成すことは間違いありません。
 今読み返してみても伊賀のくだりはちょっと長かったな――などと思ったりはしますが、しかしそこまで描き込んだからこその、この最終巻の展開であったことは間違いないでしょう。

 このサーガをほぼリアルタイムで読むことができて良かった――心からそう思った次第です。


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 「曇天に笑う」第1巻
 「曇天に笑う」第2巻 見えてきた三兄弟の物語
 「曇天に笑う」第3巻 曇天の時代の行く先は
 「曇天に笑う」第4巻 残された者たちの歩む道
 「曇天に笑う」第5巻 クライマックス近し、されどいまだ曇天明けず
 「曇天に笑う」第6巻 そして最後に笑った者
 「曇天に笑う 外伝」上巻 一年後の彼らの現在・過去・未来
 唐々煙『曇天に笑う 外伝』中巻 急展開、「その先」の物語
 唐々煙『曇天に笑う 外伝』下巻 完結、三兄弟の物語 しかし……
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