千葉ともこ『震雷の人』文庫版の解説を担当いたしました
SNSでは少し前から告知しておりましたが、本日発売の『震雷の人』(千葉ともこ 文春文庫)の解説を担当いたしました。2020年、第27回松本清張賞受賞作であり、中国唐代の安史の乱を背景に、この大乱に巻き込まれた兄妹の数奇な運命を描いた歴史ロマンであります。
中国河北・平原郡の軍大隊長の張永、その親友で平原郡太守・顔真卿の甥・顔季明、そして張永の妹で季明の許嫁の采春――それぞれに明るい未来を夢見る三人の運命は、安禄山の蜂起により、大きく狂うことになります。
常山太守の父を支えて奔走する季明。しかし彼は籠城戦の末に敗れて捕らえられた末、賊に下るのを拒み、その命を散らすことになったのです。
武術自慢の采春はこの悲報を受けて単身出奔し、燕王を名乗る安禄山を討つために洛陽に潜入。一方、張永は故郷を守るために軍に残り、燕軍と戦いを繰り広げることとなります。
全く異なる道を歩むことになった兄妹の運命は、やがて思わぬ形で交錯することに……
という本作は、冒頭に述べたとおり2020年に単行本が刊行された作品。私は題材や物語展開はもちろんのこと、作中で描かれた、理不尽な権力・暴力・圧力に「武」ではなく「文」で抗う人々の姿に惚れ込み、個人的にその年の歴史・時代小説のベストに挙げさせていただいた作品であります。
その『震雷の人』が文庫化されるに当たり、解説を担当することが出来たのはもう本当に望外の喜びだったのですが――ゲラを手にして大いに驚かされることになりました。
冒頭から知らないエピソードが描かれている!
そう、この文庫版は、単行本の内容に大幅な加筆修正が行われています。冒頭と結末の他、物語の途中でも新たなエピソードを加え、それだけでなく随所で台詞や描写の修正が行われているのであります。
(冒頭については、こちらで一部読めますのでご覧下さい)
文庫化など版が改まった際に加筆修正が行われると大喜び侍としては、たまらない趣向だったのですが――しかし今回行われている加筆修正は、単純なボリュームアップではなく、より物語の主題を明確化し、掘り下げるためのものであります。
文庫解説では、その辺りに触れさせていただきましたが、基本的に体温が高めの文章になったのは、我が意を得たりというのはあまりにも僭越ですが、加筆修正を経た作品の内容が、今の自分の心に直撃したから、というほかありません。
文庫版を手に取った方の心にも、直撃することを願っております。
何はともあれ、今まで本作に触れたことがなかった方はもちろんのこと、単行本をご覧になった方も、ぜひ改めてこの文庫版をご覧いただきたい――『震雷の人』という物語はこういう物語だったのか! と新たな感動があることは請け合います。
ちなみに蛇足ながら一つだけ言い訳いたしますと、今回の解説では、姉妹作である『戴天』に全く言及しておりません。実は締切の関係で、解説を書いている段階で『戴天』に触れることが出来なかったという理由なのですが……
もっとも、今回の解説はこれ以上足し引きできない文章だと思っているので、それはそれで頭を抱えたと思います。
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