« おーはしるい『毎日が新選組』 | トップページ | へげかもこ『ぼくの伴侶 猫と大佛次郎物語』第1巻 »

2022.07.12

大島幸也『平安とりかえ物語 居眠り姫と凶相の皇子』第1巻

 だいぶ以前に原作小説をご紹介した山本風碧の『平安とりかえ物語 居眠り姫と凶相の皇子』の漫画版第1巻が刊行されました。何やら情報量が多いタイトルですが、もちろんこれは全て本当のこと――性別を偽って陰陽寮に潜り込んだ姫が、凶相と噂される皇子と繰り広げる物語の開幕編であります。

 大納言家の四の姫に生まれながらも「姫らしい」ことには全く興味を示さず、夜空の星を見ることに魅せられてきた小夜。おかげで昼は居眠りばかりの小夜ですが、十二の時、そんな彼女を心配した母から、腕利きの宿曜師・賀茂信明と引き合わされたことから、彼女の運命は変わっていくことになります。

 小夜に、人の目の中の星空を見ることで相手の運命を見抜くという、生まれついての宿曜の異才があると知った信明。彼から宿曜を学ぶようになった小夜は、ある日、密かに信明に連れ出された先で、凶日に生まれた忌子と言われる宮様と対面するのでした。
 その目の中に美しい星空を見出し、希望に満ちた未来を語る小夜の言葉に心を開き、千尋と名乗った宮様――彼から「そなたを待っている」と告げられた小夜ですが……

 それから四年、特に運命は変わらず、親の見つけてくる婿候補から逃げ回る日々の小夜。そんな彼女を治療と称して外に連れ出した信明は、思わぬ提案をしてくるのでした。
 病弱で出仕できない信明の子・志信に成り代わって陰陽寮に入る――途方も無い話ですが、志信のため、自分の未来のために、小夜はこの話を引き受けることに……


 と、この先の展開も含めて、原作のほぼ1/3までのエピソードが描かるこの漫画版第1巻。内容的には小夜のキャラクター紹介と、「とりかえ」という彼女の運命の一大転機という、いわば基本設定を描いた部分で、本格的な物語展開はこれから――というところですが、しかし本作ならではの独自性は、ここまででもよく表れていると感じます。

 特に本作ならではの要素である「小夜の」宿曜道――彼女が人の目の中に星空を見るくだりは、まさしく彼女が言う通りに、惹きつけられるように美しいの一言。ある意味この巻のクライマックスである、千尋の目の中の月のない闇夜に、それでも彼を導く星が浮かぶ描写には、本作を漫画化した成果があった――というのは、少々気が早いでしょうか。

 また、今回改めてこの物語に触れて感じたのは、主人公である小夜の心の持ちようの正しさというか、好感の持てる心の在り方でした。

 本作はタイトルで「とりかえ」と言いつつも、完全な入れ替わりではありません(つまり志信が小夜になるわけではない)。そんな状況で、自分が志信の人生を乗っ取れば、彼がいないことになってしまうこと、そして結局自分が志信の人生を生きられるわけではないことを、小夜は正しく理解するのです。

 そしてその上で、自分は志信のために時間を稼ぐと告げ、そして自分もその間にこれから「小夜として」どう生きるかを考えると心に誓う――そんな彼女の姿勢は、設定だけみれば豪快な物語に、一つの確かな芯を与えていると感じるのです。


 と、自分が自分らしく生きるために、人の姿を借りても努力すると誓った小夜ですが――しかしその矢先に出会った美青年は、もちろんあの千尋(バランスを崩したところを抱きとめられてドキドキ――というお約束もアリ)。
 そして幼い頃から自分に、そして千尋のために何かと骨を折ってくれる信明も、どこか調子の良いところや、思惑が見えないところが感じられます。

 先に述べたとおり、物語はここから本格的に動き出すところ、この漫画版がどのようにそれを描くのか――原作読者としても楽しみにしている次第です。

|

« おーはしるい『毎日が新選組』 | トップページ | へげかもこ『ぼくの伴侶 猫と大佛次郎物語』第1巻 »