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2022.07.04

堀内厚徳『この剣が月を斬る』第3巻 総司が斬ったもの、宗次郎が取り返したもの

 沖田宗次郎と嶋崎勝太――沖田総司と近藤勇の関係を軸に描かれるこの新選組漫画もこの第三巻でクライマックス。近藤を信じてその背中を追っていた総司が辿り着いた場所は、そしてそこでの総司の決断は――衝撃の展開が待ち受けます。(作品の核心に触れますのでご注意下さい)

 心に闇を抱えながらも、近藤や土方、藤堂平助との出会いによってそこから脱し、近藤を目標に、自分なりの強さを求めるようになった宗次郎。第二巻ではそんな彼が、吉田松陰が見出した人斬り幽霊こと斎藤一に敗れ、そして再起をかけて斎藤が加わる井伊直弼襲撃の一味と対決することとなりました。

 そしてこの巻の冒頭では、宗次郎と斎藤の再戦(ここで宗次郎があの技に開眼する展開がアツい)と、一味は制圧したかに見えたものの、運命の悪戯から結局桜田門外の変が起きる様が描かれることになります。
 それでもきっと歴史に名を残す武士になる、『三国志』で読んだような英雄になると語る近藤を信じ、その背中を追い続けることを、宗次郎は心に誓うことになります。――その最中に一瞬近藤が見せた、憑かれたような瞳にひっかかりを感じつつも。


 さて、ここまでがこの巻の1/3、そしてここから物語は急速にこの巻の――いや全編のクライマックスに突入することになります。

 それから数年、京都で新選組を結成し、池田屋事件でまさに歴史に名を残した近藤たち。しかしそんな中で近藤のかつての明朗さ・豪快さは鳴りを潜め、己の目的のためであれば他者を――同じ隊士たちまで容赦なく犠牲にする、冷徹な暴君の顔を見せるのでした。
 脱走した山南が切腹を命じられ、伊東甲子太郎が騙し討ちに等しい最期を遂げ、それでも近藤の「俺を信じろ」という言葉を信じようとする総司ですが……

 と、ここで描かれる近藤の、いや総司の夢が叶った瞬間から崩壊していく様は、続く油小路での御陵衛士の掃討戦で頂点に達することになります。
 この死闘に名を隠して出撃した総司――彼の目的は、かつての友であった平助を自分の手で斬ること。近藤や土方とは違いある意味対等な同年代の親友だった平助は、本作のヒロインであるすずと共に、宗次郎と微笑ましい少年時代を過ごしてきたのですが……

 しかし近藤の所業に耐えられなくなった末に決別した平助と、総司は容赦なく刃を交えることになります。が、この二人の対決に、その前に江戸に向かっていた平助(史実)に総司が託した、すずへの手紙の中身が重なっていく構成が凄まじい。
 かつての三人の無邪気な姿を思い出し、すずを――いや「みんな」を大好きだったと語り、しかし永遠の別れを告げる総司。そして平助をも斬り、ただ一人となった総司は、ある男に剣を向けることになります。

 その男とは近藤勇――御陵衛士残党によって狙撃され、療養のために大坂に向かう近藤と行動を共にする総司は、その途上に近藤に刃を向けて……


 いやはや、色々な新選組ものを見てきましたが、近藤が悪役であったり善人でない作品はそれなりにあるものの、物語最後の敵として総司の前に立ち塞がるのは、本作だけではないでしょうか。――しかし本作においては、その必然性はあると感じます。

 思えばかつて闇に囚われかけていた宗次郎を救い、刀をただの人殺しの道具にしないことを教えた勝太。しかし時は流れて二人とも名前を変え(それが生き方の変質の象徴となっているのが巧い)、英雄になるという夢に囚われた近藤の中に闇が生まれ……
 と、立場が逆転した中で、総司が近藤を救うために斬ると決意する姿には、本作は初めからここを目指していたのか、と納得させられます。

 そして死闘の果て(ここで生死を問わず友や仲間たち、すずの言葉で奮起する総司の姿はベタではあるもののグッときます)、ついに迎えた決着。その果てに再び互いを「宗次郎」「島崎勝太」と呼ぶ(そして最終回で最後の言葉を交わす)姿には、本作だからこそ描けた二人の絆から生まれる、凄まじいまでの感動があるのです。。


 言うまでもなく、第三巻の途中からの展開はあまりに急であります。しかし結果論ではありますが、それが新選組の、いや近藤と総司の夢の、急速な崩壊感を生んでいるとも感じられます。
 もちろん長く続いていれば描かれていたドラマもあったはずですが――それでも、駆け抜けた先にここでしか描けないものを描ききって終えた本作には、新選組ファンとして深い愛着を感じるのです。唯一無二の、しかし大いに納得できる物語として……


『この剣が月を斬る』第3巻(堀内厚徳 講談社週刊少年マガジンコミックス) Amazon

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