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2022.07.25

椎橋寛『岩元先輩ノ推薦』第4巻 再び追うは怪異の陰の能力者 怪奇箱男!

 1910年代、日本各地から陸軍のエリート養成機関・栖鳳中学校に能力者を「推薦」する岩元先輩の戦いを描く本作、その第4巻では物語当初のテイストに戻り、超常現象の陰に蠢く能力者との対決が描かれることになります。箱を抱えて旅する「怪奇箱男」の正体とは……

 英国魔女軍団の先鋒との戦いをひとまず終えた中、岩元の前に現れた「先輩」奥秋雄弐。かつて岩元を捕らえ、「推薦」したという奥秋の要請で、岩元は十四人の後輩を連れ、温泉郷・湯湯酒姫を訪れることになります。この巻冒頭では岩元と後輩たちの入浴シーンも描かれ、すわ温泉回かと思われましたが――もちろんそれで済むはずもありません。
 実は奥秋の目的は、ここしばらく追い続けてきた、箱を抱え旅する怪人・怪奇箱男の捕獲。元・旅芸人であり、ある日を境に人を襲うようになった危険な能力者である箱男――しかし時既に遅く、岩元の後輩たちや、温泉郷の客たちは次々と姿を消していくことになります。

 箱から箱へと自由自在に姿を現し/消え、そして犠牲者を次々と箱の中に閉じ込めていく箱男。奥秋の奇想天外な策で一度は追い詰めた箱男ですが、そこに新たな怪異が……


 第2巻より、英国から襲来した魔女軍団との能力者同士の対決が描かれてきた本作。この巻も新たな「魔女」との対決が? と思われましたが、さにあらず一冊丸々使って、箱男たちと岩元・奥秋の対決が描かれることになります。

 元々本作は、当初は各地で起きる怪異の背後に存在する能力者の存在を探り、捕獲し、推薦する岩元の姿が描かれてきました。それが英国魔女軍団の出現により、能力バトルものへと変わっていったたのですが――それはそれでもちろん面白いものの、当初のスタイルが特にユニークなものであったのも事実でしょう。
 怪異を狩る物語は無数に存在しますが、本作の場合は、その怪異が一人の人間(でない場合もありますが)の能力によって生み出され、用いられるものである――そんなスタイルは、かなり珍しく、そして魅力的なものであったのです。

 それがこの巻ではその当初の路線全開で展開するのですから、個人的には実に嬉しい。それも登場するのは不気味な箱を持って旅する――というのはどう考えてもあの作品を連想させますが、こちらの箱にみっしり詰まっているのは実に様々な意味でおぞましいモノなのですが――箱男という、なんとも印象的な怪人であります。
 艶やかな女性と見紛う、しかしどこか毒々しく崩れたものを感じさせる青年である箱男が、謎めいた温泉郷でその本領を発揮し、己の奇怪な欲を満たすために暴走する様が、この巻では存分に描かれることになります。

 しかもこの箱男、そのビジュアルと能力だけでもインパクトがありますが、さらに強烈なのはその出自を語る過去の物語であります。彼らは過去に何をしていたのか、彼は何故箱男となったのか、箱の中のモノは何なのか――強烈な耽美と怪奇風味を感じさせるそれは、ここに来て表現上のリミッターを、一つも二つも外した感があります。

 元々今回は、岩元を明らかに上から目線で見下ろすという、これまであまりいなかったタイプの奥秋先輩の登場編。完全に箱男との対決も奥秋主導で岩元の影が薄めなこともあったのですが――しかし今回は、完全に怪異側のドラマが食っていた感があります。
 特に終盤、もうほとんど岩元側を置き去りにして盛り上がっていく箱男たちのドラマは、ただ圧巻というべきなのであります。
(それでいて、岩元の行動自体が――という捻りも面白い)

 箱男の最後の芸にまで至れば、もう完全に一線を超えた感がありますが――やるのであればここまでやって欲しい、という気持ちになるのもまた事実。
 はたして読者層的にアリなのかという心配をしつつも、この物語には、やはり拍手を以て報いたくなるのであります。


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