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2022.07.06

鳥羽亮『必殺剣「二胴」』

 現在クライマックスに突入している高瀬理恵の時代劇画『暁の犬』。その原作小説が、剣豪作家として知られる鳥羽亮による本作であります。刺客としてとある藩の政争に巻き込まれる中で、かつて己の父を斬った謎の剣士との対決に臨む青年。刺客として、剣客として、彼のたどり着く先は……

 父の創始した富田流居合術の道場を営みながらも、口入屋・益子屋からの依頼で、刺客として人を斬るという裏の顔を持つ青年・小野寺佐内。刺客としてある蓑田藩士を斬った佐内ですが、その数日後、この刺客の依頼者であった蓑田藩の用人が、腹を一刀両断された姿で見つかるのでした。
 かつて自分と同様に刺客をしていた父が何者かに斬殺された時と同じ死体の有様に衝撃を受ける佐内。益子屋は、実は佐内の父も蓑田藩からの依頼を受けた際に斬られたことを語り、この謎の剣客殺しの依頼を受けたことを語ります。

 父も自分も、簑田藩を二分する御家騒動に巻き込まれたと悟り、父を斬った剣客に挑む決意を固める佐内。そんな佐内に、蓑田藩徒目付の相良は、藩内に「二胴」という据え物切りの剣が伝わっていると語ります。
 それこそが父を斬った秘剣だと睨む佐内に、その使い手の候補者であり、敵方の剣客である三人の殺害を依頼する相良。佐内は、同じ益子屋に関わりを持つ剣客・根岸大隅とともに、三人を付け狙うのですが……


 はじめはミステリ作家としてスタートし、その後1994年に『三鬼の剣』を書いて時代小説デビューした作者。本作はそれから数年の1996年に発表された、いわば作者の最初期の作品の一つであります。

 物語的には、さる藩の御家騒動に、謎の秘剣が絡み――という、ある意味(発表当時には今のような概念はまだありませんでしたが)文庫書き下ろし時代小説の定番である内容の本作ですが、しかしそこに刺客――金を貰って人を斬るという存在を主人公として投入したことが、本作の特徴の一つといえるでしょうか。
 また、特にこの時期は、剣豪ミステリーというべき作品を発表していただけに、タイトルにある「二胴」を巡る謎――どのような剣なのか、そして誰が使うのか、それを探ることが物語の重要な部分を占めるのも、またユニークな点であります。

 そして――こうした設定を持つ本作は、ある意味必然的に、極めてドライな、一種のハードボイルドの色彩を帯びることになります。
 主人公の佐内は、外見は役者のように優美な姿でありながら、富田流居合の達人であり、これまで幾人もの相手を依頼で斬り捨てて来た刺客。そして酒や女に目をくれることもなく、ただひたすらに己の腕を磨くことに明け暮れる、剣客としての姿を持つ青年でもあります。

 幼い頃から彼の母代わりの気のいい長屋のおかみさんや、彼女の世話で佐内の花嫁候補になった浪人の娘など、ある意味いかにも「らしい」キャラクターも彼の周囲には配置されるのですが、可能な限り彼女たちとは距離を取ろうとする佐内の孤独な姿は、一種求道者的に見えなくもありません。

 しかしあくまでも彼は人斬りであります。本作の中盤で二胴の使い手と思われる剣士に襲撃され、辛うじて逃れた後の刺客仕事での彼の行動は、これはほとんどの読者を唖然とさせるのではないでしょうか。
 およそ主人公であればまず取らないようなこの行動は、しかし刺客としてだけでなく、剣客としての彼の理念に合致するものでもあるのが恐ろしい。男は殺す女は犯すという無頼タイプとは全く異なる形のアンチヒーロー像は、本作ならではのものと感じます。

 そしてそんな彼の姿は、敵味方が次々と倒されていく報復合戦の様相を呈する後半に至り、いよいよ悽愴の度合いを増していくのですが――その果てに彼が辿り着いた先は、ある意味、相応しいものであったと言うべきなのかもしれません。


 さて、冒頭に述べたように、現在『暁の犬』のタイトルで漫画化されている本作ですが、この漫画版においては、依頼主を架空の藩から水野忠邦の唐津藩に変え、そして様々な形で佐内との関わりを増やす形となっているのが興味深いところであります。

 これはもちろん漫画版が完結してみないとわからないことではありますが、もしかすると原作とは同じ物語でありつつも、些か味わいの異なる結末となるのではないか――そんな印象も受けているところです。

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