赤名修『賊軍 土方歳三』第7巻 賊軍返上ならず そして舞台は北へ
最後の最後まで意地を捨てずに戦い続ける土方と新選組ですが、会津を巡る情勢はいよいよ厳しい状況に。土方が援軍を求めて離れた最中に繰り広げられた死闘の末、会津はついに……。そして奥羽越列藩同盟も瓦解寸前となった中、土方に手を差し伸べた男とは?
幾度となく襲いくる新政府軍を退けるものの、いよいよジリ貧に追い込まれていく土方と新選組、そして会津藩。援兵を請うために庄内藩に向かう途中、米沢で恭順派の襲撃を受けた土方のもとに、米沢に滞在していた永倉新八が駆けつけたことで窮地を脱して――というところまでが前巻の物語であります。
永倉との絆は取り戻したものの、小康状態だった沖田が再び血を吐き、ちょうど米沢に身を寄せてた姉・ミツのもとで療養に入り――と、片腕と恃む仲間を失った土方。
いや、それどころか彼の不在の間に、会津の情勢はいよいよ悪化の一途を辿ることになります。行方不明だった斎藤改め山口が孤軍奮闘するも衆寡敵せず、悲惨な籠城戦の末に、会津藩はついに降伏することに……
しかし、捨てる神あれば拾う神ありというべきでしょうか、その頃、ある男に率いられて江戸から北に向かう艦隊が――時化の中、呵呵大笑しながら半裸で舵を取るというインパクト十分の登場シーンを見せたその男の名は、榎本武揚!
勝海舟曰く、ロマンチストの夢想家である榎本は、かつて大坂からの撤兵の際に意気投合(?)した土方に語ったとおり、蝦夷を江戸にするという大望を胸に抱いて、江戸を離れたのであります。
そして仙台で土方と再会し、青葉城での奥羽越列藩同盟の軍議に参加した榎本。その場で土方の総督に推挙された直後、恭順派が優勢となった仙台藩が降伏(ここで土方が「戦国時代から結局肝心なところで戦わねェ」と吐き捨てるのは、申し訳ないですがごもっとも)。額兵隊の星恂太郎との思わぬ対決を経て、土方は榎本と共に蝦夷に向かうことを決意します。
自分たちの帝として戴いてきた輪王寺宮を京に送り出し、ここに東北王朝は完全消滅。結局、土方は賊軍のままで……
というわけで、第一部完、という印象のあるこの巻ですが、これまでのように歴史の隙間を縫っての土方たちの大暴れや、意外な「真実」が描かれることはほとんどありません。そのため、仕方ないとはいえ史実通りの展開が続き、土方ならずともちょっと悄然とした気持ちにならざるを得ません。
そんな中、一人で気を吐くのが新登場の榎本で、ほとんど上述の初登場シーンのインパクトだけで、この巻の盛り上がりを持っていった感があります。(ちなみに一人だけ黒目が大きく、どこを見ているかわからない、ちょっと怖い目のデザインも妙に印象的です)
もちろん、たった一人の登場でこの状況が大きく変わるわけではない――と言いたいところですが、土方をはじめ、相次ぐ敗戦を経験してきた旧幕府軍にとって、文字通り新天地に向かうという提案は、一つの希望ではあるでしょう。
もっとも、土方の方は色々と重いものを背負っているせいか、久々に合流した隊士たちを気遣う発言をして、かえって隊士たちに心配される始末。ここで島田魁・中島登・松本捨助のワチャワチャ言い合う姿が妙に楽しいのですが……
そしてこれも久々に再会した松本良順に己の心中を吐露し、ついに新選組解散を口にした土方。はたして新選組の行方は――というところで、次巻より蝦夷共和国編開幕となります
ちなみにこの巻でもう一人、妙なインパクトがあったのが、奥羽越列藩同盟の軍議シーンでブツブツ不気味に呟いていた安部井磐根。この描写には何か原典が――?
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