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2022.08.02

野田サトル『ゴールデンカムイ』第31巻 大団円 黄金のカムイの呪いの先に

 いよいよ長きに渡った黄金争奪戦にも決着の刻が来ました。五稜郭から脱出した杉元たちが飛び込んだのは、函館駅に向かう列車の中――しかしそこは第七師団の兵士たちを満載! 後ろからは鶴見たちも追いすがり、地獄行きの暴走列車の中で繰り広げられる死闘の行方は……

 五稜郭で広大な土地の権利書と、莫大な砂金を発見したものの、鶴見率いる第七師団の猛攻を受けることとなった杉元たち。鯉登父が、都丹が、二階堂が、ソフィアが、ヴァシリが次々と退場していく中、五稜郭を脱出した杉元とアシリパたちが飛び乗った函館行きの列車の中で、最後の最後の戦いが繰り広げられることになります。
 この戦場で土地の権利書を守るべく必死の戦いを繰り広げるのは杉元、アシリパ、白石、土方、牛山。そしてそれに対するは鶴見、鯉登、月島、尾形、さらには無数の第七師団の兵士と、ヒグマ――ヒグマ!?

 最後の舞台に残った役者たちの中で、最後に立っているのは誰か――逃げ場のない閉鎖空間の中で、いつ終わるとも知れない死闘が続くことになります。


 というわけで、ここから先の戦いは、どの組み合わせ一つとっても、まさに黄金カードと言うべき名勝負の連続。杉元・土方サイドも鶴見サイドも、文字通り死力を尽くした戦いが、この最終巻の中に、驚くべき密度で詰まっているのです。

 しかし黄金を巡るこの戦いの掛け金は己の命。ここに至って、いやここに至ったからこそ散っていく一人ひとりのキャラクターの姿は、その演出も相まってこちらの感情をグワングワンと揺さぶってくれます。
 誰が散って、誰が残るのか――それをここで挙げることはしませんが(本当は一人一人触れたい!)、残るのはある意味納得の面子であるのと同時に、退場する者は心から惜しまれる顔ぶれであることは言うまでもありません。

 しかしそんな消える命を背負い、昏く翳っていくのはアシリパの瞳。たとえ杉元とともに地獄に落ちる覚悟を固めたとしても、しかしこれだけの命が眼の前でまとめて失われていくことが、彼女にとって、どれだけ大きな衝撃であるか言うまでもありません。そしてその暗闇から彼女を救い出せるのが、誰のどんな言葉であるかもまた……


 そしてその果てに迎えた最後の最後の対決に臨むのは、言うまでもなく杉元と鶴見――片やただ一人を助けるための金を求めて首を突っ込んできたノラ坊、片や無数の人間の運命を操ってきた大義と野望の男、対称的な二人の対決は、もはやこれまで二人が背負ってきた人生のぶつかり合いといえるでしょう。
 そして圧巻は、二人の、いやそこに至るまでの戦いの中で、鶴見の心の仮面が外れた瞬間でしょう。ラスト一話前に見せた表情はもちろんのこと――その他にも単行本の加筆修正描かれた鶴見の意外な(?)想いは、鶴見という人物が善悪という単純な視点では量りきれない、本作を代表する「人間」であったことを示すものなのでしょう。

 しかしこの黄金争奪戦の中で、杉元もまた様々なものを背負い、成長してきました。そんな彼が己のためだけでなく、誰かのために動く姿は、格好良すぎるかもしれませんが、黄金のカムイの呪いを解く一つの希望であったと感じるのです。


 そして最終話――一コマ一コマに至るまでに施された細やかな演出に圧倒されつつ、生き残った登場人物(いや生き残らなかった者も)のその後を丹念に描いた結末には、これほど「大団円」という言葉が相応しい内容はないでしょう。

 実はこの最終話については、雑誌掲載時に比べると、大枠は同じながら、細かいコマ割りや台詞回しなど驚くほど大量に手が入っていることに気が付きます。
 これはおそらく(いや間違いなく)、雑誌掲載時に終盤の描写に批判が寄せられたことによるものだと思いますが――私はその時には「フィクションはどこまで現実に責任を持つべきか」ということを随分考えさせられましたが――それに対して、できる限りの努力をしたことが、今回の修正からは感じ取れるように思います。
(こちらも批判が寄せられた、あの「オチ」にもよく見たら修正が入っていたのには噴きましたが)


 そして参考文献リストも終わり、ああ、本当に終わってしまった、と思っていたら、その後に付された描き下ろし4ページ。
 これは一体? と思ってみれば――いやはや、最後の最後の最後まで量りきれない人間でしたが、あるいはこれが彼の役目だと思えば、それはそれで一つの救いのようにも感じられるのです。


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