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2022.09.15

ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第11巻 想い出の女性と家督の魔性

 奔り続けた末に新たな厄介事を背負い、まだまだ奔る新九郎。今川家の家督争いに加えて、元々の領地である荏原の経営でも頭の痛い日々を送る新九郎ですが、その荏原で、ある人物と再会することになります。そしてそこでの経験が、今川家の家督争いにも思わぬ影響を与えることに……

 今川義忠の横死がきっかけで始まった家督争いの結果、姉の伊都と甥の龍王丸を連れて京に戻ることになった新九郎。龍王丸の家督相続のため、幕府に働きかけを行う運動する新九郎ら伊勢家ですが、龍王丸が駿河を離れていることもあり、はかばかしくない状況が続きます。
 そんな中でさらに面倒なことに、領地である東荏原は凶作で年貢も思うように収められそうにない状態。しかも領地経営を任せていた家臣の一人が病で寝込み――というわけで、ようやく将軍義尚の御供衆に選ばれたばかりにも関わらず、新九郎は荏原に向かうことになるのでした。

 そこで荏原経営では大先達である(そして兄の仇でもある)伯父・盛景を訪ねる新九郎ですが、そこで出会ったのは初恋の人――というより初めての女性であり、今は従兄の盛頼の妻・つる。そして彼女が連れてきた息子の顔は……


 と、ヒエッとなるような展開が冒頭に用意されているこの巻ですが、このつるを通じて浮き彫りにされるのは、家督というものの――時に人を迷わせ、狂わせる魔力めいた――重みであります。
 いや、それはある意味、この物語の冒頭から今に至るまで、ずっと描かれ続けていたものであります。そして何よりも、今も今川家の家督という形で、新九郎を悩ませているものであることは間違いありません。

 しかしそれがむしろ実感として新九郎に伝わるのが、自分の息子(そしてもしかしたらそれは新九郎の――でもあるかもしれないのですが)に那須家の家督を継がせようとするつるの姿を目の当たりにして――というのは、これはこれで何ともリアルな感覚のように思えます。

 ちなみにつるの夫である盛頼の方は、この場面では京にいて登場しないのですが――この巻の後半に、本当に満を持して登場することになります。それも、こんなにこの人がありがたく見えたことはない! という頼もしさで。
 この盛頼、以前からそれっぽいところがありましたが、新九郎のちょっと悪いお兄さんという感じの立ち位置で、個人的に本作でもお気に入りのキャラの一人であります(もう一人のお気に入りの多米権兵衛も、この巻でついに新九郎に仕官。要所要所で相変わらず渋い活躍を見せてくれるのがたまりません)。


 さてこの巻では、以前つると新九郎が距離を縮めるきっかけとなった、源頼朝直筆だという那須与一への下文がついに登場するのですが――それが思わぬ形で、今川家の家督争いに影響することになります。
(そしてそれは、もう一つ別の方面にも影響するようですが、それはまだしばらく先なのでしょう)

 しかしこの家督争いの裁定権を握るのは、将軍位を退いて大御所になったとはいえ、今なお権力を握り続ける義政。そしてこの人が動くと、ほとんどの場合碌な事にならないのですが――さて、何とも困った理由でようやくやる気を出した義政の行動が、ここでは吉と出るか凶と出るか。
 次巻の内容が早くも、そして非常に気になってしまうのです。


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