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2022.09.18

廣嶋玲子『千吉と双子、修業をする 妖怪の子、育てます』 本領発揮、西の天宮の奉行・朔ノ宮

 『妖怪の子預かります』シリーズの第二部である『妖怪の子、育てます』待望の続編であります。今回はタイトル通り、千吉と天音・銀音の姉妹が、妖怪奉行所・西の天宮の奉行・朔ノ宮の下で術の修行に入ることになります。しかし、当然千吉が大人しくしているはずもなく……

 強大な呪いから弥助を救うために禁忌の術を使い、その代償として全ての記憶と力を失って赤子に転生した大妖・千弥。弥助はその赤子に千吉と名付け、妖怪の子預かり屋を営む傍ら育てることに――という基本設定で展開する、『妖怪の子、育てます』シリーズ。
 『妖怪の子預かります』では、保護者である千弥が弥助をベタベタの甘々に育てましたが、それは弥助と千吉になって立場が逆転しても変わらず、弥助が千吉を可愛がる以上に、千吉は弥助に甘えまくるという、もう大変な状態であります。

 そんな千吉ですが、前作では弥助の大家の久蔵と化蛇族の姫の双子の娘・天音と銀音とともに奇怪な神にまつわる事件に巻き込まれることになりました。そこであわやという目に遭ったことから自分の無力さを痛感した千吉が、弥助を守るための力が欲しい――と頼ったのは、西の天宮の奉行・朔ノ宮であります。
 天音・銀音と共に首尾よく弟子入りを許された千吉ですが、しかしいざ修行が始まってみれば朔ノ宮の身の回りの世話や、彼女に仕える四連――の暇つぶしの付き合いばかり。一向に術を教えてもらえず、ようやく教えてもらったのも珍妙な術一つなのです。

 しかも弥助に子を預けた化け獺が、約束していた期間内に戻らず、弥助が子の世話にかかりっきり。ついにイライラを爆発させた千吉は、双子とともに化け獺を探しに出かけたのですが……


 というわけで千吉たちが修行するエピソードがメインとなる本作ですが、千吉と並んでもう一人の主役というべき存在が、朔ノ宮であります。『妖怪の子、育てます』から登場した彼女がいかなる妖で、どのような役目を背負っているのか、今回掘り下げられることになるのです。
 そもそも妖怪奉行所・東の地宮の対になる西の天宮の奉行というだけでも大いに気になるところですが、東の奉行――千吉の前世とは縁浅からぬ、というより滅茶苦茶因縁が深すぎる――月夜公とは犬猿の仲、いや犬狐の仲で、顔を合わすと凄まじい喧嘩にしかならないというのが実に愉快です。

 そしてその月夜公が、孤高であるからこそある意味わかりやすい(特に千弥絡み)であるのに対して、朔ノ宮の方は一見フレンドリーながらどこか底知れないものを感じさせるという、ある意味対極の存在であるのもまた面白い。
 そんな朔ノ宮の存在感が、色々な意味でまだまだ子供な千吉に対する大人の存在として、本作においては強く前面に出ていた印象があります。

 そんな朔ノ宮を前にしては千吉も分が悪すぎるのですが、クライマックスで描かれるある危機――そこに至るまでの重く黒い展開がまた作者らしい――においてみせた活躍は、それまでの抑えたものがあった分、何とも爽快に感じられます。


 ちなみに本書には表題作の他、朔ノ宮と月夜公の初対面を描く「馴れ初め」と、千吉と双子が留守にしている間の弥助と久蔵の姿を描く「親達の夜更かし」の二つの短編が収録されているのですが、特に前者が強烈な印象を残します。
 先に述べたように、顔を合わせれば壮絶なことになる朔ノ宮と月夜公ですが、その背後に秘められたある想いとは……。月夜公は何だかんだで周囲の妖に恵まれている、というか月夜公の回りはなんでこんなに感情が重い奴ばかりなんだ――と天を仰ぎたくなる一編であります。

 何はともあれ、本書で一気に存在感を増した朔ノ宮の存在もあり、これからの展開も楽しみなシリーズです。


『千吉と双子、修業をする 妖怪の子、育てます』(廣嶋玲子 創元推理文庫) Amazon

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