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2022.09.21

士貴智志『どろろと百鬼丸伝』第7巻 人が他者と触れ合い、結びつくことで生まれるもの

 大長編としての手法で『どろろ』を描く『どろろと百鬼丸伝』も順調に巻を重ね、これで第7巻。数多くのキャラクターが集結した木曽路での戦いを終え、どろろと百鬼丸は、そして多宝丸は、再びそれぞれの道を歩き始めることになります。百鬼丸が遭遇した新たな死霊の正体とは……

 木曽路での戦いの末、ひとまず和解した百鬼丸と多宝丸。しかしそこに白馬鬼と化したミドロ号に乗って現れた醍醐景光によって、どろろは再会したばかりの父・火袋を眼前で喪うことになります。
 怒りに燃える百鬼丸と多宝丸は、それぞれの力を振り絞って景光に挑んだものの、既に人外の魔人と化した景光には及ばず、むしろ景光は息子たちの成長を喜ぶようにその場を去るのでした。


 そんな前巻の展開を受け、百鬼丸と多宝丸はそれぞれに力を求め、これまで出会った人々に一旦の別れを告げて再び旅に出ることになります。
 もっとも、百鬼丸の傍らにはどろろがいることは言うまでもありません。この巻の前半で描かれるのは、そんな二人が出会った新たなる死霊との対決を描く「古寺の入道の伝」であります。

 川の中に仕掛けられた、蜘蛛の巣のような奇怪な罠に触れた手が離れなくなってしまったどろろ。罠を仕掛けた相手を倒せば解けるはずと、どろろを残して探しに行った先の荒れ果てた山寺で、百鬼丸は四化入道と名乗る
僧と出会うことになります。
 見るからに常人とは思えぬ奇怪な風貌の四化入道ですが、やはりその正体は死霊。攫われたどろろを助け、自らの体の一部を取り戻すために入道に挑む百鬼丸ですが、そこに現れたのは……

 原作でも登場した僧形の妖怪・四化入道――戦略的に意味がある山に砦を建てようとした景光に逆らったため、生き埋めにされた僧が、妖怪となって生まれ変わったという奇怪な出自を持つ存在であります。
 本作でもそれの設定は基本的に変わるものではないのですが(いや、さらに奇怪な内容に変わっていると言うべきかもしれませんが)、しかし大きく異なるのは、その先の展開であります。

 その内容についてここでは詳しくは述べませんが、それはこれまでに本作で、そして他の『どろろ』において描かれてきた人間と人間ならざるものの関係に、また新しい視点を与えるものといえるでしょう。
 四化入道が持っていた百鬼丸の体の一部も、それが体の一部か? という気がしないでもないのですが、しかしそれが入道の正体を知ったどろろの、そして百鬼丸の選択に繋がる結末は、決して悪くはありません。


 そしてこの巻の後半「背負いしものの伝」では、ついにどろろが文字通り背負ってきた秘密が明かされることになります。
 一種の義賊であった父・火袋が、庶民の蜂起のために溜め込んでいた黄金――その黄金の在処が記された地図の存在を、百鬼丸に明かすどろろ。本当に心から頼れる人にだけ見せなさいと、今際の際の母が言い残した地図を見せたどろろが百鬼丸に願ったものと、それに対する百鬼丸の答えは……

 本書は一度登場したキャラクターが、他のバージョンの『どろろ』のようにそのエピソード限りで退場することなく、その後も引き続き登場して、どろろと百鬼丸の旅に関わっていく姿が描かれることになります。
 そこで描かれるのは、人が他者と触れ合い、結びつくことで生まれるもの――決してネガティブではないものの存在であり、それこそが、極めてドライな味わいの強い他の『どろろ』と比しての、本作の特徴のようにも感じられます。

 本書の前半の四化入道の物語だけでなく、このどろろの背負った地図のくだりもまた、そんな本作ならではの内容であると感じられるのですが――さて、そんな本作ならではのキャラクターとなった多宝丸にも、新たな他者との出会いが描かれることになります。

 景光に対抗できる力――百鬼丸にあって自分にない魂念力を得るために、琵琶法師と行動を共にしようとする多宝丸。そんな彼を琵琶法師が誘った先で待っていたのは、意外な存在だったのです。
 はたしてこの出会いが、彼に対して、そして物語に対してどのような意味を持つのかはまだわかりませんが――その一方でこの巻のラストで百鬼丸たちの前に現れた、奇怪な存在を見れば、百鬼丸と多宝丸の道は意外と早く交わるのではないか、という印象も受けます。

 その印象が正しいかどうかはさておき、いよいよ盛り上がるであろう大長編の向かう先に期待です。


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