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2022.09.24

細川忠孝『ツワモノガタリ』第3巻 三番手・原田左之助、種田宝蔵院流の真実!

 新選組の強者たちが強敵たちとの戦いを語りあう、決闘特化型の新選組漫画も、二の段 藤堂平助対田中新兵衛がいよいよクライマックス。そして続く三の段は、何と原田左之助vs高杉晋作であります。左之助の槍術の由来とは、高杉の剣術の腕前とは……

 屯所での宴会の中で出た「この国において最強の剣客は誰か?」という話題に答えるため、新選組の強者たちが語る死闘を一番ずつ描いていく本作。その一の段では沖田総司が芹沢鴨との死闘を語りましたが、続いて語るのは藤堂平助、相手は田中新兵衛――幕末の四大人斬りの一人であります。

 心酔する武市半平太にとって障害である壬生狼を斬らんとする新兵衛と、その襲撃を突如受けた平助。かくて、防御ごと叩き潰す剛剣の薬丸自顕流の新兵衛と、合理的かつ洗練された技を的確な判断で放つ北辰一刀流の平助――水と油ながら、ともに人斬りに心理的制限を持たぬ者同士の対決が繰り広げられることになります。
 前巻の段階では、蜻蛉の構えから繰り出される常識外れの新兵衛の剛剣に苦戦していた平助ですが、この巻の冒頭では互いの剣の激突により、双方の刀が折れるというアクシデントが発生。どちらが有利とも言い難い状況で藤堂が繰り出した剣技は……

 いやはや、一歩間違えると曲芸めいた技ながら、しかしその技のロジックと、そこに秘められた藤堂の天才性を描いてみせるのは、格闘漫画の技法で剣戟を描く本作ならでは、というべきでしょう。そしてその平助の天才の前に、なおも己の心の強さを押し通してみせた新兵衛もまた見事と言うほかありません。

 そして個人的に一番気になっていた結末ですが――新兵衛最後の人斬りというべき姉小路公知暗殺に繋げてみせたのは、ある意味予想通りでしたがやはり面白い趣向であります。この暗殺、新兵衛が斬ったと言われるわりには姉小路が即死していなかったりと不審なところもあるのですが、平助との激闘の後であれば納得でしょう。
(と思ったらどう見ても一撃必殺しているし、何よりも姉小路殺しに向かう展開が、いくら新兵衛でも唐突に見えるのですが……)


 そしてこの巻のメインとなるのは、表紙を飾る原田左之助であります。長州の剣を知りたいという土方のリクエストに応えて身を乗り出した左之助が語るのは、なんと大物中の大物・高杉晋作との対決であります。

 しかし高杉といえば奇兵隊、奇兵隊といえば近代戦術という印象ですが――本作の(いや史実でも)高杉は柳生新陰流免許皆伝。そしてこの巻で描かれる、生前の師・吉田松陰を守って柳生新陰流を振るう高杉の姿は、(やっぱり本作でも)エキセントリックな高杉に似合わぬ流麗なものであります。
 そこに柳生新陰流という剣流の特徴を見出すのが実に本作らしいところですが、いずれにせよ、高杉が本作に登場するに足る強者であることは間違いありません。

 さて対する左之助ですが、この巻のかなりの部分を割いて描かれるのは、彼が槍術――「種田宝蔵院流」の達人となるまでの物語であります。
 かつて江戸の練兵館で恐るべき達人(その名を桂小五郎)の剣を目撃し、剣の道を断念するに至った左之助。そんな彼の前に現れたのは、巨漢三人をものともせず叩きのめす槍術の遣い手・谷三十郎だったのです。

 槍を極めれば相手がどんなに強い剣士でも勝てるという三十郎の言葉に、槍術の道に進む左之助ですが、やがて種田流に飽き足らず、宝蔵院流の門を叩くことに……

 と、上で左之助の流派をカッコ付きで記しましたが、それはそんな流派は存在しないためにほかなりません。それでは何故)左之助は「種田宝蔵院流」を名乗ったのか――ここで描かれるその理由は、ある意味極めて直球なのですが、しかし「それでこそ左之助!」と言いたくなる、小気味よさすら感じさせられるものであります。
 そもそも左之助といえば、直情径行で明朗快活、豪快な快男児というイメージがあります。二の段に登場した平助のキャラはかなり変化球でしたが、ここで描かれる左之助は、まさにイメージ通りの裏表のない好漢――そんな好漢の修業時代の物語に、大いに胸ときめかせていただきました。


 さて、この巻ではそんな二人の男のこれまで歩んできた道程を描き、種田宝蔵院流 原田左之助 対 柳生新陰流 高杉晋作の決闘が始まるところで次巻に続くことになります。
 ある意味これまでで最も結末が読めないこの一番、予想できるのは、それぞれ存分に「らしさ」を見せてくれるであろうことのみであり――そして今はそれを見ることが楽しみでなりません。


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