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2022.09.02

松本救助&あかほりさとる『めんへら侍』第2巻 押さえるべきは押さえた、実は真っ当な時代劇(コメディ)!?

 時は元禄、自意識過剰で被害妄想、情緒不安定のめんへら侍こと鷹松左門の周囲で起きる騒動を描く時代漫画の第2巻であります。本人はただ普通に暮らしているつもりが、堀部安兵衛やら徳川綱吉やらに絡まれる左門。その一方で、お蜜への想いはなかなか通じず……

 十万石の格式である筆頭旗本・鷹松家の嫡男ながら、いくさびとバカの父のもとから逃げ出して貧乏長屋に暮らす左門。最推しの茶屋娘・お蜜に想いを寄せる一方で、自分は加賀前田家の龍姫や吉原の胡蝶太夫から想いを寄せられる左門ですが――持ち前の被害妄想をはじめとする面倒くさい性格山盛りのために自爆してばかりの毎日であります。

 そんな左門が引き起こしたり、巻き込まれたりする騒動を描く本作ですが、第2巻の冒頭では、左門があの堀部安兵衛に迫られることになります。
 吉原で胡蝶に横恋慕した侍を叩きのめした(?)左門を見て、好敵手と勝手に思い込み、決闘を申し込んできた安兵衛。当然ながら相手にせず逃げ回る左門は、勢いでお蜜に告白したものの、江戸で二番目に好きと言われ、一番じゃない――とどん底状態に。

 やけになって安兵衛の求めに応じ、怒り任せに安兵衛を圧倒する左門ですが、その最中に火事が起き、安兵衛に引っ張られて人命救助に巻き込まれ、そこでまたも暴走することに……

 と、人の都合も考えずに決闘を迫る安兵衛に、失恋(?)の痛手で突っ走る左門(そして自分が戦いたいがばかりに左門に負けろと言い出す親父)と、見事に人の話を聞いてない奴ばかりで転がっていくこのエピソード。
 冷静に考えると本作は人の話を聞かない連中揃いですが、ここではその中でも瞬発力と知名度では屈指の安兵衛が出てきたことで、いい感じで物語が(カラ)回りした印象があります。特にラストでの左門の「俺をけなせ」(とその次のページのリアクション)は実に彼らしく、爆笑させていただきました。


 しかしそれで終わらず、この騒動に謎のくノ一・不忍が絡んでいたことがわかって――という引きから始まる次のエピソードでは、左門と弟で養子に出た老中・松平甲斐守の過去エピソードが展開。まだ真っ直ぐだった頃の左門と甲斐守の互いを思いやる心にグッと来たと思えば、甲斐守にまつわる伝奇的な設定が飛び出したりと油断できません。
 そしてその次は江戸城からお忍びで抜け出してきた綱吉(本作の綱吉は滅茶苦茶江戸っ子なのですが、確かに言われてみれば綱吉は江戸生まれの江戸育ちでした)に初午の江戸に引っ張り出された左門が、何故か凧合戦をするハメになって……

 と、息を継ぐ間もなく転がっていく本作ですが、しかし基本設定を飲み込んでから読んでみると、実は驚くほど真っ当な時代劇(コメディ)であることに気付かされます。
 そしてそれは、「めんへら」のように崩すところは崩す一方で、時代劇として押さえるべきところは押さえる――つまりは大きな嘘はついても小さな嘘はつかない(というかこの時代を扱う際に描くと面白い史実は取り込む)という姿勢にほかなりません。この辺り、なるほどベテランの技だ――と、恥ずかしながら感心した次第です。

 とはいえ、このレベルでめんへら呼ばわりだと、リアクションの大きなラブコメの主人公は大抵そうなってしまうのでは――とまだ拘ってしまうのですが……

(それはさておき、ラストのエピソードでさらっと綱吉が口にするものすごい言葉にまた爆笑)


 さて、この巻のラストでは、物語は元禄十四年三月十四日に至るのですが――そこで何が起きるか、言うまでもないでしょう。はたしてそこに左門がいかに絡み、絡まれることになるのか――何だか先が楽しみになってきたところであります。


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