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2022.09.12

特集「陰陽師」の世界(その二) アプローチ様々の実り多き特集

 「オール讀物」2022年8月号の特集「陰陽師の世界」掲載作品の紹介の続きであります。今回はトリビュート作品を紹介します。

「博雅、鳥辺野で葉二を奏でること」(谷津矢車)
 鳥辺野での墓荒らしから始まり、検非違使の集団をただ一人で壊滅させた童姿の妖――その妖の真の狙いが博雅の左腕であったことから、晴明と博雅はこの妖に挑むことになります。そして妖との対峙の末、二人が知ったその目的と正体とは……

 本作も原典の世界観をベースとした作品ですが、原典とはまた異なる印象を与えるのは、物語の組み立てから描写に至るまで(まず間違いなく意識して)異なるアプローチを取っているからでしょう。
 そのアプローチとは、細部まで描くこと――博雅の過去の設定や、晴明と博雅の周囲にあるもの/目の当たりにするものといった情景描写まで、原典においては一種の省略で成り立っていたものを克明に描くことにより、本作は同じ中身でありつつも、別の味わいを生み出しているのです

 その最たるものが、原典にしばしば登場する「呪」の概念ですが――原典で博雅が頭を捻って終わるその先まで踏み込んで描き、かつそれが物語そのものの骨格に関わってくるのが印象に残ります。(しかもオチまで……)


「突き飛ばし法師 播磨国妖綺譚」(上田早夕里)
 室町時代の播磨を舞台に、蘆屋道満の子孫で、道満が遺した式神・あきつ鬼を使役する僧の呂秀と、その兄で薬師の律秀の法師陰陽師兄弟が、土地で起きる様々な事件を解決するシリーズの最新作であります。
 山中の川で砂鉄を集め、鉄造りに励む農人たちと次々と突き飛ばす奇怪な法師が現れたと相談を受けた兄弟は、あきつ鬼とともに山に向かうのですが……

 蘆屋道満という共通項はあるものの、元々『陰陽師』とは全く別の世界観である本作。しかし、妖を人ならざるものとして排斥するのではなく、共に生きる者としてその言葉に耳を傾け、解決を目指す呂秀には、「あちらの」道満も、にんまりとして肩をポンと叩いてくれるのではないかと思います。
(その一方で、シリーズ読者には大いに気になる引きも用意されているのが嬉しいのです)


「遠輪廻」(武川佑)
 内裏を探して京に出没するという鬼――「恋しきをさらぬ顔して忍ぶれば」と上の句を口にのぼらせるという鬼の噂を耳にした信長から、その調べを命じられた兵部(細川)藤孝。鬼ならば、と陰陽師の助力を求めた藤孝は、賀茂家の末裔でありながらキリシタンになったという在昌と出会うのでした。在昌の手を借りて鬼を呼び出した藤孝は、光秀や里村紹巴とともに、連歌を始めることに……

 更に時は流れ、戦国時代を舞台とする本作の主人公は、武家でありながらも古今伝授を受けたことで知られる細川藤孝。そしてキリシタン陰陽師という伝奇的な経歴でありながら実在の人物である賀茂(勘解由小路)在昌がその相棒を務めるのですから、面白くならないはずがありません。
 そして二人が挑むのは、博雅がポカをやったことでも有名な天徳の歌合にも縁があるらしい歌詠みの鬼。初遭遇時に鬼に対して下の句を返したものの「へたくそ」呼ばわりされた藤孝が雪辱を期して挑む連歌は、そのシチュエーションの面白さもさることながら、その中に織り込まれた世界に圧倒されます。

 しかし本作の真にユニークな点は、藤孝と在昌が一見全く異なる立場のようでいて、戦乱の時代にあって、なおも人がこれまで積み上げてきたもの――文化を受け継ぎ、後世に繋げていこうと奮闘する存在であることでしょう。作者の作品では、戦の中にあって戦だけに囚われず、自分自身の、人としての営みを求め戦う人々の姿が描かれてきましたが、藤孝と在昌もその一人であることは間違いありません。
 この二人が「行くか」「行こう」と事件に挑む物語をこの先も読みたいものです。


 残る二作のうち、「アイリよ銃をとれ 令和忍法帖」(青柳碧人)は、作者のシリーズ連載の第三話、現代に生きる忍者の活躍ぶりがユニークですが、特集としての要素は敵が陰陽師の末裔というくらいでしょうか。
 「ただのろうもの」(三津田信三)は、かつて執筆依頼のため夢枕獏を訪ねた「僕」が同席した男から聞いた、呪いにまつわる怪異譚という内容ですが――晴明の陰陽師がいない現代、いや仮にいたとしても救えない人の行いにゾッとさせられるのです。


 以上、本家+トリビュート六編、アプローチは本当に様々ですが、実り多い特集であったことは間違いありません。


「オール讀物」2022年8月号(文藝春秋) Amazon

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