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2022.10.21

椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第3巻 夢の胡蝶 その真実

 『MAO』第14巻と同時発売となった『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第3巻は、アニメの設定を押さえつつも、独自の展開をみせていくことになります。西国に旅立った三人の夜叉姫と、四凶の残る二人との対決の行方は――あのイケメンもいよいよ本格的に物語に絡みます。

 弥勒と珊瑚、そして鋼牙が篭もる結界の山で、四凶の饕餮と檮コツらと激突し、親世代の力を借りつつも見事に勝利したとわ・せつな・もろはの三人。夜叉姫恐るべし、の念を雑魚妖怪たちに植え付けるという弥勒たちの狙い通りその名は轟き、三人はいよいよ西国に歩みを進めることになります。

 その前にもろはの借金問題でわちゃわちゃしていた三人の前に現れたのは、寿里庵を名乗るイケメン(まさか本作でも登場するとは)――と思いきや、その正体は化け狸の子・竹千代。
 彼の口から四凶の一・渾沌が駿河国に潜むと聞いた三人は、かつて自分たちが育った屋敷を襲撃し、離れ離れになるきっかけを作った(そして竹千代には賞金稼ぎだった父の仇である)渾沌と対決するため、まず駿河に向かうことを決意するのでした。

 そこで大枚の代金で堺への護衛を頼む二人連れの客が現れたのを渡りに舟とばかりに、西国へと旅立つ一行。しかしこの客が理玖とりおんなのですから、その旅路が平穏とは到底思えず……


 と、ここに来て竹千代(あと屍屋)、理玖、りおんが登場し、TVのレギュラーキャラはほぼ揃った感のある本作。どのキャラもアニメとは微妙に設定や登場タイミング(特にアニメでは後半から登場だったりおん)が変わっているのが楽しいところであります。

 しかしその中で、現時点で最も立ち位置が変わった印象があるのは理玖でしょう。真意を隠したままでとわに接近し、戦いに誘うという点では同じですが、アニメでは当初は是露側にいたものが、本作ではむしろ殺生丸と行動を共にしていた(第1巻の時点で犬夜叉とかごめが姿を隠す際に迎えに来ていたのが彼だった)というのが、大いに気になるところです。

 そしてその理玖の警告という名の挑発によって、夜叉姫たちを迎え撃つことになるのが、残る四凶の二人・渾沌と窮奇。渾沌が得意の奇門遁甲の陣を使ってまずとわを分断するのに対し、せつなは姉を救うために死地に飛び込むのですが――ここで描かれるせつなの回想/精神世界が、この巻のある意味クライマックスといえるでしょう。

 かつて、自分の中の妖怪の血を恐れると同時に、己の弱さにコンプレックスを抱いていたせつな。その想いは、常に自分を守ろうとするもろはへの感謝と、守られるしかない自分のはがゆさと繋がっていたのですが――ある日、そんなせつなの前に現れたある人物が、彼女に示したものこそが、夢の胡蝶だったのであります。
 喜びや悲しみなどの感情を奪う代わりに、心の迷いを弱めるという夢の胡蝶を受け入れたせつな。そして今、その時のことを思い出したせつなは……

 第2巻では夢の胡蝶に憑かれたせつなを救うため、もろはが蛾の妖怪と戦ったことがきっかけで莫大な借金を負ったことが語られましたが――ここでせつなはせつなで、もろはのように強くなるために夢の胡蝶を受け入れていたという事実が明かされ、何というか実に感情の重い関係だったことが明らかになります。

 もっとも、アニメの方では当初から行動を共にしつつも、比較的距離感が感じられた二人の間に、これほど強い結びつきがあったというのは、やはり嬉しい描写ではあります。
(ちなみにアニメの夢の胡蝶は眠りと夢を奪うという設定だったのが、こちらは喜びなどの感情を奪うという違いも興味深い)

 そしてまた面白いのは、この夢の胡蝶を与えたのがあのお方だったということですが――何のかんの言いつつ気が向いた時に助けてくれるのは相変わらず、というより、やはり自分の××ゆえでしょうか。これまで琥珀が夢の胡蝶に対策を取ってこなかったのも、与えたのがこの方だったから、というのもまた納得の理由であります。


 さて、そんな過去を乗り越え、姉と、そしてもろはと力を合わせて強敵を打ち破ったせつな。しかし力尽きて窮地に陥ったところに絶妙のタイミングで登場したキャラクターが、一つのメッセージを残します。是露にまつわるこのメッセージの意味するところは果たして……
 『犬夜叉』からの読者であれば誰もが共感するであろう言葉で幕となる本作。次なる展開が楽しみでなりません。


『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第3巻(椎名高志&高橋留美子ほか 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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