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2022.11.29

『辺獄のシュヴェスタ』第6巻

 時は16世紀、ドナウ川とライン川の分水嶺に建つ修道院を舞台に繰り広げられてきた、少女たちの生存と復讐の物語もいよいよ最終巻であります。ついに仲間たちに犠牲が出た中、それでも修道会の総長を狙うエラ。彼女と仲間たちの戦いは、やがて欧州の命運を左右することに――果たして復讐の結末は!

 育ての母を魔女狩りで殺され、魔女の子としてクラウストルム修道院に収容されたエラ。修道会の総長・エーデルガルトに復讐を誓う彼女は、洗脳と虐待が横行する修道院の中で、カーヤ、ヒルダ、テア、コルドゥラという仲間を得ることになります。

 力を合わせてサバイバルを繰り広げる五人ですが、コルドゥラは正体が露見し、重大な秘密をエラに伝えた末に、最期を遂げることになります。彼女が伝えた修道会の企て――とある小島を疫病の試験場とする計画を阻止するため、エラたちは水路を伝って、ヒルダを脱出させようとするのですが……


 そんな展開を受けて始まるこの最終巻の冒頭では、仲間の中でも最も大人しく、不器用だったヒルダが、決死の覚悟を固めて挑んだ脱走作戦の顛末が描かれることになります。しかしその結末はあまりに残酷であり――そしてそれは同時に、エラたちの心身にも様々な傷跡を残すことになります。

 そして修道院の処刑人となったエラ、修道会の裏仕事に携わるカーヤ、エラを見守る覚悟を決めたテア――進む道を違えることとなった彼女たちの、修道院での時間は瞬く間に流れ、終わりの時が近付くのですが……


 卒業の際、優秀な成績を修めた者のみがエーデルガルトから直々に贈り物を与えられる――物語の最初から示されたその時に向かって、加速していく物語。エラが運命の瞬間に向けて決意を固める一方で、修道会の計画もついに最終段階を迎えます。

 ヴァチカンの教皇庁図書館と、教会から弾圧される異端の科学者と――表裏二つの知識を一手に収めた科学力で以って、人々に神の奇蹟を見せ、それによって人の意思を統一せんとするエーデルガルト。そしてその企ては、旧教新教を問わず、欧州中に伝染病をばら撒くという悪魔の計画に至ることになります。この企てを阻める者は――いや察知できる者はいるのか!? しかし意外な人物が、修道院の外側で人々を結びつけることに……

 と、この巻の中盤以降――いわば最終章というべき部分は、伏線も感情も、これまで溜めに溜め込んだ一気に解き放つような展開の連続。これまで物語で描かれてきた物事が、そして何より人々の想いが結びつき、決戦に向かって怒涛のごとく突き進んでいきます。

 もちろん、そのうねりの中心にいるのはエラその人です。苦難に苦難を重ね、己の良心をすり減らしながらも、その復讐心を失うことはなかった彼女の情念が籠もった「強い言葉」の数々は、こちらの胸にも深く突き刺さり、否応なく心を沸き立たせてくれます。

 しかしここで最後の戦いを繰り広げるのは彼女だけではありません。彼女の頼もしい仲間たちも(そして彼女と敵対していた者も)それぞれのやり方で、人間の「意思」を奪おうとする者たちと戦うのであり――彼女たちが腕を組んで立ち上がる姿は文字通りの「シスターフッド」というべきでしょう。

 これまでに描かれてきたものが重く辛いものだっただけに、その姿は痛快としか言いようがありません。


 しかし、たとえ修道会がどれだけ邪悪だったとしても、そしてそれに対する怒りが正当であったとしても、エラの行いは、彼女自身が語るとおり、突き詰めれば暴力であります。はたしてそこに修道会とそれを率いるエーデルガルトとどれだけの違いがあるのか――そう問うことも可能でしょう。

 しかしたとえ「正しい」とは言えなくとも、彼女の歩んだ道にある種の尊さがあるのは、彼女が最後の最後の瞬間まで、自分で考えることを止めなかった――すなわち、己の行動の責任を他者に背負わせず、己の意思を貫いたからにほかなりません。

 人の意思を奪おうとする者と、己の意思を貫こうとする者と――その相克の果てにあるのが、この物語の結末なのです。


 冷静に考えてみると、最終巻では一気に二年近い時間が流れており、その間にあったかもしれない様々なドラマが描かれずに終わったのかもしれません。そこにはもしかしたら様々な事情があるかもしれませんが、しかしその加速度が、物語の緊迫感を大きく高めたことも事実でしょう。

 何よりも、あまりにも見事な大団円(冒頭の、現代のライン川から発見された鉄の処女に込められた想い!)――タイトルをきっちり回収した上で迎える、涙が出るほど格好良いラストシーンを目の当たりにすれば、これまでこの物語を読んできて良かったと、心から感じるほかないのであります。

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