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2022.11.11

山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 司法解剖には解体新書を』 なるか史上初の司法解剖!?

 いよいよ二桁の大台も目前の『八丁堀のおゆう』シリーズ、第九弾ではおゆうと仲間たちが連続変死事件に挑むことになります。続発する急死者に毒殺を疑いつつも、原因を掴むことができないおゆう。真相究明のためには、もはや司法解剖しかない? 騒動は大槻玄沢も巻き込んで広がっていくことに……

 今日も今日とて、現代の東京と十九世紀前半の江戸で二重生活を送るおゆうこと関口優佳。そんなある日、江戸南町奉行所の定廻り同心・鵜飼伝三郎らと奉行所の内与力・戸山に呼び出された彼女は、元長崎奉行の配下・河村、そして河村と懇意だった唐物商の平戸屋が相次いで急死したことを聞かされ、その調査を内々に命じられるのでした。

 河村が外で会合して帰ってきた晩に亡くなったことから、料亭の線で調査を進めた結果、そこで河村が廻船問屋・玄海屋に会っていたと知る伝三郎とおゆう。しかしその玄海屋では蜻蛉御前を名乗る怪しげな巫女が、不吉な予言を残すではありませんか。
 そしてほどなくして出る新たな死者。相次ぐ不審死に毒殺を疑うおゆうは、現代での知恵袋・宇田川の発案で、日本史上初めての司法解剖に挑戦しようとするのですが……


 相変わらず現代ではコロナ禍が続く(作中では第2波の頃ですが)一方で、一見平和な江戸で相次ぐ不審死事件に挑むという趣向の今回。その焦点となるのは、サブタイトルにもあるように「司法解剖」であります。
 現代では当たり前のように行われる司法解剖ですが、医学がまだまだ未発達な、しかも死体に刃を入れることが一種の禁忌であった江戸時代においては、簡単にできものであることは、言うまでもありません。

 何しろ腑分けには役所の許可が必要――かの杉田玄白たちが、これまたタイトルに出ている解体新書を翻訳するきっかけとなった腑分けも、結構特別なケースだったのですから、ハードルの高さは推して測るべしでしょう。
 しかもこれまでのようにおゆうや宇田川が自分でやるわけにもいかず、では誰が執刀を――と思いきや、そこに杉田玄白の弟子である大槻玄沢が登場して! と、歴史上の有名人登場で、さらに物語は賑やかに展開することになります。


 正直なところ、こうしたデコレーション部分はそれなりに面白いものの、事件そのものは比較的地味という印象が強い本作。また、事件のトリックの方も、思い切りノックスの十戒に抵触しているのが、すっきりしないところでもあります。
(もっともこの点があるからこそ成立する物語ではあるのですが……)

 それでも捕物帖としての面白さ、そして意外なところで表の歴史に繋がっていく歴史ミステリ的な部分の仕掛けは、もう熟練したものを感じさせてくれるものがあります。
 また何よりもキャラクターものとしての魅力――特にいよいよおゆうを挟んでヒートアップしてきた感のある伝三郎と宇田川の存在――も、いつもながらの楽しさがあることは言うまでもありません。

 そしてラストには豪快な爆弾が炸裂するわけですが――さすがに前作クラスのとんでもないものではないにせよ、しれっと飛び出す史実とのリンクにはニッコリさせていただきました。
(とはいえ、さすがにちょっとこれは強引過ぎないかな、という印象は強いのですが……)


『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 司法解剖には解体新書を』(山本巧次 宝島社文庫) Amazon

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