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2022.11.23

椎橋寛『岩元先輩ノ推薦』第5巻 怪奇現象と能力者と バラエティに富んだ意外性の世界

 1910年代を舞台に、各地で発生する怪奇現象の背後に潜む能力者を「推薦」する岩元先輩の戦いを描く本作も、早くも第五巻であります。前巻では一冊丸々使って長編エピソードが描かれましたが、この巻ではバラエティに富んだ短編エピソードが描かれます。岩元先輩が各地で出会う怪奇の正体は……

 各地から将来有望な若者たちを集める陸軍のエリート養成機関・栖鳳中学校――その隔離施設は、人知を超えた能力を発揮する者たちばかりを集めた一団。そして各地で発生する怪奇現象の背後に潜む彼ら能力者を、栖鳳中学校に「推薦」する――すなわち、彼らを見出し、必要に応じて取り押さえ、説得し、そして保護するのが、三年生にして学園書記長の岩元先輩の任務であります。

 これまで、能力者を狙って襲来した英国魔女学校を撃退、各地で人々を箱に閉じ込めていた怪人・箱男と対決――といった目覚ましい活躍を、しかし人知れず繰り広げてきた岩元先輩と後輩たちですが、この巻では四+一話の怪事件が描かれることになります。
 しかしその怪事件というのが、本作らしくそれぞれ並みのものではありません。その内容を見てみれば……

 東京監獄で、収監されていた囚人たちが次々と機械人形に変化した末、歯車と化して消滅してしまう「歯車ノ煙」
 日本各地に突如として無数の流星が落下、甚大な被害を出した末に栖鳳中学校にも襲いかかる「同時多発流星事件」
 強力な念写能力を持つ能力者が捉えた、無数の張り紙で覆われ奇怪な男女が中に潜む怪物件を巡る「電波物件ト念写男」
 物々交換で次々に人手に渡ってきた櫛を手にした者につきまとう怪人の呪いを描く「呪物ワラシベ長者」

 いずれも、本作がこういう作品と知らなければ、到底能力者ものと思えないような奇怪な事件揃いであります。

 ことに強烈なのは、巻頭の「歯車ノ煙」でしょう。確かに生身の人間だった者が、突如機械人形としかいいようのない姿に変化した末、寿命が来たもののように分解され、歯車と化して消えてしまう――何とも凄まじい現象ですが、実は今回は他のエピソードとはいささか趣を変え、既に犯人は捕らえられている状態で物語は始まります。
 その奇怪な能力を使って、殺し屋を営んでいたものが、ついに無差別殺人を起こして捕らえられた能力者・神草。監獄での惨劇も彼の周囲で起きたことから、彼の罪状は明らかですが、しかし岩元はそこにある疑いを抱き――と、意外性に富んだ物語が展開していくことになります。


 そう「意外性」――本作の魅力はこの言葉に凝縮しているように思われます。どう考えてもこの世のものならざる怪異としか思えない現象が、生身の人間によって起こされている意外性。そしてその能力者がそのような怪奇現象を起こす――起こさざるを得ない真実が存在するという意外性。
 作中に込められた様々な意外性が、いわゆる能力者ものの中でも、本作が特異な位置を占める原動力となっていると感じます。

 そしてその意外性は、今回また別種の形で示されることになります。たとえば「同時多発流星事件」の背後にあった、あまりにすっとぼけた(ほとんど不条理コメディのような)能力。不気味な都市伝説を思わせる「電波物件ト念写男」で描かれる、ほとんど反則としか言いようのない真実。
 連載初期にこれをやったら怒られそうな内容ばかりですが、しかしここまで様々な意外性を描いてきた本作だからこそ許される意外性、ここにはあります。

 その一方で「呪物ワラシベ長者」の怪奇現象の内容が、どこかで聞いたようなものだったり、あるエピソードでは、本当に復活させる必要があったかしら? というキャラクターが(しかも二人)再登場したりと、個人的にはちょっともったいなく感じるところもあるのですが、本作の無二の魅力の前には、それは小さなものというべきでしょうか。
 怪奇もの・猟奇ものとしてちょっと突き抜けた感のある前巻に比べると大人しめかもしれませんが、それでもその意外性は変わらない――そんな一冊であります。


 ちなみに巻末に収録された「風鈴娘ノ怪」は、とある大橋の上で風鈴を売る奇妙な風体の少女と出会う一編。岩元に対して「あなたには売らない 必要ない」と告げる少女の真意は――結末を見ると本作が番外編とされているのが理解できますが、しかしこの多様性もまた、本作の魅力というべきでしょう。


『岩元先輩ノ推薦』第5巻(椎橋寛 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon

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