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2022.11.30

ちさかあや『あやかし浮世絵導師』第1巻 少年北斎、妖怪と対峙す

 浮世絵師といえば真っ先に名前があがるであろう葛飾北斎――本作はその北斎をはじめとする浮世絵師たちが妖怪たちと人知れず対峙していたという、何とも魅力的な設定の伝奇漫画であります。絵の魅力に取り憑かれた少年・鉄蔵(後の北斎)が知った、父の正体とは、そして自分の秘められた力とは……

 お上御用鏡師・中島伊勢の子としてやがては父の跡を継ぐはずでありながら、絵の魅力に取り憑かれ、日がな一日絵ばかり描いて暮らしている川村鉄蔵。そんな鉄蔵に雷を落としてばかりの父ですが――そんなある晩、奇怪な妖怪・火車が鉄蔵の家を襲います。
 強大な炎を操る火車から鉄蔵を守り、炎に包まれる伊勢――しかし炎の中から現れたその姿は、やはり人ならざる妖怪・雲外鏡だったのであります。

 その力で火車を撃退したかに思われたものの、不意を突かれて倒された雲外鏡。父の死に激高する鉄蔵の力は火車を上回り、今度こそ火車を撃退したものの、彼もまた力尽きて倒れるのでした。
 そして地に伏した鉄蔵の前に現れた鳥山石燕と名乗る絵師は、鉄蔵には「浮世絵導師」になってもらうと語り……


 冒頭に述べたように、浮世絵師の代表格であるだけに、フィクションの世界に登場することも非常に多い北斎。しかしその多くは彼が絵師として歩みだしてからの姿で、少年時代の彼を描くものは、存外に少ないように思えます。
 特に彼の養父・中島伊勢が登場するのは珍しいのですが――まさかその伊勢の正体(厳密には少々異なるのですが)が雲外鏡とは、物語の冒頭から、その意外性に驚かされます。

 いや、驚かされるのはその設定のユニークさだけではありません。何よりもそんな物語を、ものの見事に画として紙面に焼き付けてみせる作者の筆力こそは、本作の最大の驚きであり、魅力といっても過言ではないでしょう。
 特に第一話冒頭、鉄蔵の夢に現れた妖怪たちが富士山に向かうその姿、そして同じく第一話のクライマックスで鉄蔵が放つ、その秘められた力の発露――いずれも見開きで描かれたその強烈なパワーには、目を奪われる、というより心を鷲掴みにされてしまうのであります。

 作者のちさかあやは、『豊穣のヒダルガミ』『豊作でござる! メジロ殿』等、一貫して時代ものを描いてきましたが(にしても同じ「豊」という字を関していてもえらい内容の違い――はいいとして)、やはり絵師といえば『狂斎』。河鍋暁斎の若き日を描いたこの作品は惜しくも未完ですが、画を描くということに並々ならぬ執念を抱く主人公の姿が印象に残る作品です。
 本作の主人公は、奇しくもこの作品で狂斎が複雑な想いを抱く北斎――もちろん芸道ものと伝奇ものと、ジャンルに大きな違いはありますが、浮世絵師の己の画への想いと、その画を漫画の中で描くというこだわりには通じるものがあるように感じます。


 さて、物語の方は、一度拾われた石燕のもとを飛び出した鉄蔵が、百々爺・鎌鼬・山童ら妖怪たちが蠢く結界の森に迷い込むことになります。そして妖怪たちとの対峙の末、絵師としての、そして妖怪たちを画の中に封じる浮世絵導師としての己に鉄蔵は目覚めていくことになるのです。
 この辺りの展開自体は面白いものの(特に山童戦の決着には感心)、何よりも鉄蔵が人の話を聞かずに突っ走るため、基本的な設定があまり語られていないのが、個人的にはスッキリしないところですが――まだまだ物語は序章ということなのでしょう。

 何よりも、冒頭に収録された、この先の展開を予告するような序幕にワンカット登場する他の浮世絵師たちの姿が、バトルものの強豪キャラ的で猛烈に格好良く――全員が本編に登場するかわからないものの、この巻のラストには既に一人登場していることもあり、この先の展開にも大いに期待してしまうのです。
(しかしまだ名前と姿が一致しない中でも、一発でわかってしまう国芳……)


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