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2022.11.27

張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第8巻 深い闇を覗き込む「原典」回帰編

 千年を生きたおかしな狐・廣天を狂言回しに『捜神記』の世界を描いてきた『千年狐』も、この巻から新章に突入となります。暗がりを極度に嫌う青年・石良と廣天(あと神木)が覗き込む、都の夜の闇に蠢くものとは……

 都で続発する妖絡みの事件に対して役所に寄せられる住民の苦情――それに対する都の見回り部の長の決断は「お化けなんとかします課(仮)」を設置して対処に当たること。そしてその担当に選ばれたのは、何故か極度に暗がりを嫌う小吏・石良だったのですが――しかしさすがに一人で対応させるわけにもいかないと、民間から登用されたのは、廣天と名乗る、いかにも曰く有りげな美女(?)だったのであります。。
 とりあえず部署名を妖考事部と改めた石良
は、得体の知れぬ廣天とともに、都の闇の中に歩み入ることに……

 というわけでこの巻からスタートするのは、公務員が妖と対峙する、何だか今どきの退魔漫画っぽい(適当)物語――捜神怪談編です。

 前巻まで展開してきた神異道術場外乱闘編の結末において、チームメイトだった宋定伯と医者(というか後者)と決別し、何処かへ旅立つこととなった廣天と神木は、都に出てきたわけですが――そこでまあ妙な成り行きから様々な怪異に遭遇するという趣向であります。
 言うまでもなくこの怪異というのは、本作の原典というべき捜神記に由来するもので、この展開は、廣天たちの目から捜神記の各エピソードを語り直す、原点いや原典回帰とでもいえばよいかもしれません。

 さて、この巻では大きくいって三つの怪異が描かれることになります。興を削ぐことになってはいけませんので、その内容の詳細には触れませんが、原典を踏まえつつ、巧みにアレンジがほどこされているのは、もちろんこれまで同様。
 いや、これまで以上に原型を留める内容となっているだけに、かえってそのアレンジの面白さが際立つと言えるかもしれません。

 もちろんそのアレンジの中には、いかにも本作らしいギャグ要素も含まれております。その中でも、原話では夜道で怪異に遭う類いの物語であったものを、脳天気な若者たちが話半分に怪異見物に行って本物に出会ってしまう――という、いわゆるPOVホラーのノリで描いてみせたエピソードには特に驚かされました。
 いやはや、古典怪談を題材にここまでやるか! とそのセンスに毎度のことながら感心させられてしまうのです。


 しかしこの捜神怪談編は、これまでの本作のノリからは、大きく異なって感じられる部分があります。それは怖さ、暗さ――特に、禍々しさすら感じさせる濃厚な闇の描写の迫力です。
 もちろんこれまでのエピソードの中でも、本作はヒヤリとするような恐ろしさや、禍々しさを感じさせる描写は少なくありませんでした。しかし今回は、その闇の存在を意識的に随所に取り入れ――簡単に言ってしまえば、ホラー漫画としての味わいすら感じさせる描写も少なくないのです。(というか表紙の時点でもうコワい)

 そしてそんな捜神怪談編の象徴というべき存在が、廣天のバディとなる石良であることは間違いないでしょう。はたして如何なる理由か、暗闇を異常に怖れる(暗いところに入ってしまった時の彼の表情がまた凄い)彼の態度、裏返せばそれだけこの時代の闇の濃さと恐ろしさを示すものであって――むしろ本作がこれまでその闇の住人たちを中心に描いたのと、対照的に感じられます。
 ちなみに石良も捜神記の登場人物ですが、彼が登場するエピソードは、現時点ではまだ描かれていません。これがまた相当ケッタイなエピソードなのですが……

 それはさておき、これまでひねりにひねった物語を描いてきた本作だからして、捜神怪談編も、単に怖いあるいは恐ろしいだけで終わるものではないでしょう。そして石良の運命もまた、意外な変転が待つことは間違いありません。
 この先はまさしく暗中模索の物語ですが――しかしそこで石良が、そして我々が出くわすものは、間違いなく一筋縄ではいかない、そしてだからこそ魅力的な物語であることだけは、確信しているところであります。


 ちなみにこの巻のラストでちらりと顔を見せるキャラは実在の人物なのですが、実は前巻まで登場していたアイツにちょっぴり関わりがあります。はたしてこの先、早くも懐かしい存在になってしまった彼らと再会することがあるのか――その辺りも気になるところであります。
(というか杜堪と見回り部の皆さんも、前巻にちょっと顔を出していたり)


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