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2022.11.20

出口真人『前田慶次かぶき旅』第11巻

薩摩から筑前に舞台を移して続く暴れ旅、黒田家の領地に足を踏み入れた慶次の前に現れたのは黒田の「虎」こと後藤又兵衛。いくさ人はいくさ人を知る――たちまち意気投合した慶次と又兵衛ですが、この巻では又兵衛の主君である黒田長政が登場します。が……

 薩摩で大暴れして飛び出した末に、筑前に現れた慶次・権一・宗茂・左近・兵庫の面々。筑前といえば黒田如水ですが、慶次と如水は、かつて海底の黄金百万両を賭けた大博打で激突した――というか如水が一方的にボロ負けした――因縁の間柄であります。

 如水が滅茶苦茶引きずっている一方で、そんなことは気にしない慶次の目的は、黒田の「虎」に会うこと。黒田八虎の一人・後藤又兵衛、そして同じく母里太兵衛――いずれ劣らぬ豪傑たちとの出会いに、慶次もご満悦であります。

 が、この巻の冒頭から登場する二人の主君であり如水の子・黒田長政は、二人とはあまりに異なる器の小さな男。ささいなことでヒステリックに怒鳴り散らし、家臣に当たり散らす――もう絵に描いたような、いくさ人とは対極にある小人物です。

 そんな長政の心をいま占めているのは、十数年前に討った城井鎮房の存在。豊前の戦国大名であり、秀吉の移封の命に逆らって奮戦した末に、長政に討たれた鎮房ですが――その手段が大問題であります。何しろ、和睦の証として鎮房の娘の鶴姫を妻に迎え入れると称して鎮房を招き、その宴席で騙し討ちしたのですから……

 家中でも後味の悪い一件として尾を引くこの騙し討ちですが、実際に手を下した長政にとってはなおさらなのか、ほとんどノイローゼのように引きずり、それを家臣に当たり散らす状態。しかしもとはといえば自業自得、そんな器の小さい人間がふんぞり返っていると聞いて、慶次が黙っていられるはずがありません。

 そして慶次が始めたとんでもないいたずらとは……


 そんなこの巻ですが、裏の主役というべき存在感を見せるのが黒田長政であります。父親や家臣が格好良く描かれている一方で、ここでは一人で悪役を押し付けられることになっているのには、いささか可哀想に感じます。

 私は後藤又兵衛ファンなので、長政がこういう風に描かれるのはまあ納得しますが(するな)、しかし史実からすれば騙し討ちは如水も関わっていたようですし、長政ファンにとっては正直なところ相当不愉快になる描写でしょう。

 とはいえ、ここで慶次が喜々としてやらかすいたずらは、実にしょうもないのですが、だがそれがいい。特にある人物と組んでの仕上げは痛快の一言で、長政には申し訳ないのですが、非常に楽しませていただきました。

(しかしこのエピソードのラスト、何だかいい感じにまとめてましたが、別に長政は改心していないような……)


 さてそんな騒動の果てに次に慶次が向かったのは、細川忠興のもと。忠興といえば、(作中でも取り上げられましたが)奥方絡みで色々と逸話が残っているわけで、この巻はアレな二代目特集か! という気もしますが、さてそんなところにやって来た慶次の理由とは……

 次巻予告を見たところ、なかなか面白い人物が登場するようで、まだまだ慶次もかぶき足りないようであります。

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