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2022.12.15

「コミック乱ツインズ」2023年1月号

 号数の上では早くも新年の「コミック乱ツインズ」誌の表紙&巻頭カラーは『鬼役』。『真剣にシす』(盛田賢司)が連載開始となり、『懊悩寺おつとめ日鑑』が特別読切で掲載されています。以下、これまで同様、特に印象に残った作品を一つずつ取り上げます。

『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 いよいよ決戦――敵方の家老・拝郷邸に、吉兵衛・井口、そして佐内と、たった四人で乗り込む相良。敵の最終兵器というべき川越を討つため、いま問題になっている大道寺家老襲撃ではなく、昔の人斬りを蒸し返して持ち出して、挑発する厭らしさであります。そしてまんまと挑発に乗っていきりたつ川越に対峙する佐内に対して、今度は拝郷の方がセクハラ煽りをかけるのですが――もはや「いつもの」感のある内容には動じません。というかセクハラの首魁を横において動じるはずもないのですが――あっ、もしかしてこのためのセクハラだったのか!?(錯覚です)

 何はともあれ、たった四人で乗り込んできたこともあり(井口さん、何となく巻き込まれ感あると思ったら、ただ一人、冷や汗かいてるのがおかしい)、ついに川越と一対一の立ち会いに持ち込む佐内。ついにこの時が来た! という感じですが、しかしさすがに量産型と違い、川越は強い! 二胴特攻の太刀を躱され、一転窮地に立たされた佐内の耳に届いたのは――と、最終回一話前のようなテンションで次回に続きます。

(しかしセクハラ煽りに「とうに慣れっ子」は誤植かな? と思いつつ、なんか似合う佐内……)


『侠客』(落合裕介&池波正太郎)
 伊太郎の仇討ちから数年、伊太郎改め長兵衛たち町奴と、水野十郎左衛門たち旗本奴は、二人の友情など無関係に対立を深め――というわけで、今回前半に描かれるのは、長兵衛と十郎左、かつての親友同士の対峙。思い出の幡随院で余人を交えず語らう二人ですが――十郎左に長兵衛の言葉はもはや届きません。
 武士の子でありながらも武士を捨てた長兵衛と、どこまでも武士として生きるしかない十郎左――二人の道が決定的に違ってしまったことを告げるように「長兵衛となったおぬしとはもう笑い合うことはできぬ 命を大事にせよ伊太郎」と去っていく十郎左……

 しかしこの後も町奴と旗本奴の対立は深まり、芝居小屋でついに両者がにらみ合うことになりますが、「ここで死んでも本望だ」と覚悟を決めた長兵衛の前には、日頃「武士の精神」を広言する連中も、(問題になると家が潰れちゃうので)すごすご引き下がるほかなく――とはいえ、このままで済むとは思えません。仇討ちが序章でしかなかったような盛り上がりを見せる中、物語は歴史上の大事件に突入するのですが……


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 権力の魔に取り憑かれたような柳沢吉保が逝った後も、彼らに操られるように戦いは続きます。聡四郎・玄馬主従と僧形の暗殺者たちとの戦いは続き、さらにそこに伊賀者までもが襲撃。そんなことをしている間に、黒鍬者の陽動でできた隙に最強の暗殺者が――と、事態は吉保が望み、紀文が描いた通りに着々と進んでいくことになります。

 そんな中、柳沢吉保の子・吉里もついに覚悟を決めて「権力者」の顔で動き出し、配下の忍びに命じて非情の粛清を――と、どこまで続く血まみれの権力闘争。そんな中で一官吏・一剣士でしかない聡四郎に何ができるのか? 舞台はいよいよ大奥に移ります。


『真剣にシす』(盛田賢司&
 以前読切で掲載された本作が、早くも連載開始であります。賭博ブームが最高潮の天保年間に、医師で博打ぐるいの葛の葉の夜市は、相棒の初老の剣士・榊左門次とともに、江戸を離れて街道の賭場を次々と荒らす日々。そんな夜市に賭場を荒らされた親分・殺鼠の丁五郎は、それぞれ三つずつのサイコロを振って大小を賭ける、「鷹か鼠か」で勝負を挑んでくる――というのが今回の物語です。
 第一話ということもあって、展開自体はシンプルですが、メインとなる「鷹か鼠か」のルールを活かしたイカサマの仕組みはなかなか面白く、この調子でメインとなるゲームとトリックが有機的に結びついた展開が描かれるのであれば――夜市の異常な賭博狂キャラもこれから本領発揮でしょうし――なかなか面白い作品になるのではないかと思います。

 そして物語は、読切版で一度スルーされた「天下博徒御前試合」になるようですが――幕府主催とはいえ、裏がありそうで心配です(しつこい)


 次号は、今回お休みの『カムヤライド』『ビジャの女王』も帰ってくるとのこと。


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