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2023.01.25

高橋留美子『MAO』第15巻 幽羅子の真実、あの男の存在?

 平安時代からの呪いを巡り、大正時代に集った者たちがいつ果てるともしれぬ戦いを繰り広げる『MAO』、その第15巻では、ついに物語の核心に触れる秘密の数々が描かれます。はたして運命のあの日、一体何が起こったのか。鍵を握るのは、この巻の表紙を飾る人物――?

 呪禁道・御降家の後継者争いに端を発し、不老不死と化した者たちが繰り広げる戦いと、その御降家の負の遺産である呪具を巡る戦い。前巻から引き続き、この巻の冒頭で描かれるのは、その後者――強大な火の呪力を持つ面を巡る戦いであります。
 偶然手に入れたこの面を悪用し、一つの村を支配する男と対峙する摩緒ですが、面の呪力は摩緒すら上回るほど。しかしそこに現れた新御降家の一員・流石は、あっさりと面を圧倒するほどの水の呪力を見せます。

 ここで面白く、かつ恐ろしいのはこの流石、生まれてこの方、流浪の生活を送ってきたために、ただ安定が欲しいという一念で動いていることでしょう。これまで新御降家に加わったのは、復讐や力への渇望といった、負の情念で動いている者たちばかりでしたが、しかし流石にはそんな陰はまったくないのであります。
 ないけれども、金のためであればあっさり人を殺しても何とも思わない――そんなタガの外れようは、やはり新御降家に相応しいのかもしれません。


 この流石との面争奪戦も終わり、続いて描かれるのは、新御降家の側で暗躍していた謎の女性・幽羅子の物語。彼女もまた平安時代から生きる者であり、かつては呪詛に憑かれて無惨な顔となっていたものが、今は摩緒の婚約者であった紗那と同じ顔を持つ存在ですが――その正体が、ついに彼女と、そして意外にも土の術者・夏野から語られます。

 ある日突然、これまで抑えられていた幽羅子の呪力の増大を察知し、その場に急いだ摩緒と菜花。そこで夏野と合流した摩緒は、呪力を暴走させ、「素顔」を晒した幽羅子が、手にしたあるものの力で呪力を抑え、紗那の顔を取り戻すのを目撃することとなります。
 幽羅子が手にしたものとは、そして幽羅子と紗那の関係とは。そして摩緒を長きに渡る放浪に追い立てることとなった、紗那殺しの真相とは――ここで語られる真実の一部は、あるものは予想できたかもしれませんが、しかしその一方で全く予想だにできなかったものでもあります。

 そしてここで摩緒が知るのは意外な人物との関わり――彼にとっては御降家との関わりを抜きにしても兄のような存在であり、紗那の恋人でもあり、そして後継者争いの中で何者かに殺された土の術者・大五が、想像だにしない形で、これまでの因縁に関わっていたという事実であります。
 摩緒と紗那、双方にとって大きなウェイトを占める人物でありながらも、既に故人であり、それだけに本作における重要人物から――ある意味「容疑者」から――外れていた大五。この巻を手にした時、彼が表紙に登場するのを意外に思いましたが、ここまで大きな意味があったとは!

 しかしあくまでも彼は故人――と油断はできません。本作には以前から、猫鬼によって再生され、土の中から甦った男がいるのですから。そしてこの巻の終盤では、この謎の男と猫鬼が起こした騒ぎを追って、摩緒たちが急ぐことになります。そしてそこには幽羅子の操る邪鬼、そして白眉までもが参戦し……

 いやはや、一つの真実が明らかになれば、一つの謎が浮かび上がる――そんな本作の一筋縄ではいかない魅力は、ここでも健在であります。


 なお、この巻では、木の術者・華紋と、かつて彼が生み出した「種」を巡る短編エピソードが収録されています。登場当初は倫理観の薄い優男として危険人物扱いだった華紋ですが、その後の様々な展開を経て、その印象は大きく変わってきました。
 今回のエピソードも、彼の中にある独自の使命感、そして一種の優しさが描かれており、内容的には物語の本筋とはほとんど絡まないものの、そのキャラクター性を大きく深めたものとして、印象に残るものとなっています。


『MAO』第15巻(高橋留美子 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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