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2023.01.10

和月伸宏『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第8巻 札幌決戦決着 そして新選組に欠けていたもの

 札幌を舞台に、「新選組」の生き残りたちと、劍客兵器部隊将、髏號・雹辺双の激闘を描く「札幌新選組哀歌」編もいよいよクライマックス。御陵衛士の意地を燃やして単身雹辺に挑む阿部十郎の戦いの行方は、ついに放たれる永倉の必殺剣とは。そして戦いの結末は……。そしてその後も波乱は続きます。

 札幌を舞台に、官吏を次々と血祭りに上げていく仮面の部隊将・雹辺双。斎藤と永倉、阿部の三人の追跡の裏をかくように出没してきた末、ついに真正面から虐殺を開始した雹辺に挑む斎藤と永倉、さらに警官隊と北征抜刀隊ですが、斎藤の牙突に眉間を貫かれながらも平然と戦い続ける雹辺の前には一同大苦戦を強いられることになります。
 しかしそこに現れた阿部は、まさかの超至近距離からの射撃&超速弾丸再装填で雹辺の二刀流を封殺、大活躍を見せることに……

 という、阿部十郎史上に残る大激斗で読者のハートも射抜いてしまった阿部の活躍から始まるこの巻。二刀を用いた攻防一体の猛攻に対して、正面から連射&(リボルバーなので六発で弾切れするところに)猛スピードで装填という、コンセントレーション=ワンに目覚めたとしか思えぬ離れ業の名は林檎速射。どんだけ好きなんだよ林檎、というのはさておき、新選組に敗れ、歴史の陰に消えた御陵衛士の意地爆発に、こちらも熱くなります。

 しかし、二刀vs六連射であれば後者が有利なはずの状況を、不可解にもひっくり返す雹辺の刃に傷を負う阿部。そこに、御陵衛士を笑う者は新選組を笑う者だ――とばかりに立ち上がったのは永倉新八! これまでその実力を少しずつ見せてきた新八が、いよいよその必殺剣を見せることになります。
 変わらぬ雹辺の二刀の猛攻に対して、永倉は池田屋で咄嗟にやって以来の(この時点で既におかしい)二刀で当て身→体勢崩し→上空に打ち上げ→一刀両断という問答無用の即死コンボ、「受・崩・殺 龍尾三匹」をいきなり披露! 雹辺真っ二つ!

 いやはや、斎藤があのレベルなのですから、それと並び称される永倉も当然猛者だとは思いましたが、斎藤のシャープな攻めとはまた異なるタイプの恐ろしい強さ。前巻の服部武雄もそうでしたが、史実の要素をいかしつつ、るろ剣ならではの漫画的デフォルメを存分に効かせてみせるのには、納得&拍手であります。

 しかし雹辺もこれでは終わりません。詳しくは述べませんが、いかにも少年漫画らしいハッタリの効いた正体を現した雹辺に対して、永倉や斎藤だけでなく、阿部、栄次や警官隊、抜刀隊まで加わっての最後の戦いが繰り広げられることになります。
 この辺り、本作には珍しい総力戦として、これまで猛者と認められてこなかった者たちが意地を見せる展開は大いに盛り上がるのですが――しかし、いかに劍客兵器の部隊将が相手とはいえ(そして相手が言い出したこととは言え)さすがに一対多数はいかがなものか、と思われるかもしれません。

 しかしここに、ある意味「札幌新選組哀歌」の意味があるといえます。
 斎藤も永倉も、そして阿部も、一人では雹辺には勝てず、力を合わせて初めて勝つことができた。幕末に最強を誇ったはずの新選組が最後に敗れ去ったのは、一人ひとりの力を求め、力を合わせることを忘れたからだった――そのことをこの戦いは理解させてくれたのですから。

 雹辺の強さの描写、一人ひとりのキャラクターの出番、総力戦の盛り上がり――そうした演出が、ドラマのテーマに繋がっていく。小樽もそうでしたが、この札幌でも、見事な漫画を見せていただいた思いです。
(正直なところ、作者は今まさに脂が乗りきっている感すらあります)


 しかし、これはあくまでも一つの勝負の終わりに過ぎません。札幌から引き上げる斎藤の前に現れた函館組の劍客兵器の一人――以前から斎藤に深い怨恨を持つことが示されていた謎の男の正体は、なんとあの十本刀・魚沼宇水の弟弟子・伊差川糸魚!
 琉球武術の使い手ながら兄弟子ともども新潟感のあるネーミング――はともかく、ここに来て宇水関係者というのは実に面白い。小樽・札幌と、敗者の掘り下げが画かれてきただけに、実力の割にあっさり敗れた感のある宇水の再評価がなされるのかどうか、気になるところです。

 ――が、それはまだ先の話。まずは舞台は函館に戻り、剣心たちの前に現れたのはあの山県有朋。劍客兵器の裁定に来たと言いながら、認識不足としか思えない山県の行動が、新たな波乱を呼ぶことになるのですが――物語の初めから登場しつつも、まだその全貌を見せていなかった劍客兵器函館隊がいよいよ本領を発揮することになるのか?
 まだまだクライマックスは続きます。


『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第8巻(和月伸宏&黒碕薫 集英社ジャンプコミックス) Amazon

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