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2023.01.06

『REVENGER』 第一話「Once Upon a Time in Nagasaki」

 長崎で阿片密売に手を染めていたという許婚の父を上役の命で斬った薩摩藩士・繰馬雷蔵。しかし口封じで殺されかけた雷蔵は、事前に義父に依頼を受けていたよろず屋・碓水幽烟から、勘定奉行の松峰こそが黒幕であったことを知る。幽烟らの手引をする一方で、雷蔵は自ら松峰に復讐の一刀を振るうが……

 必殺テイストの時代劇アニメ、それも藤森雅也に虚淵玄、さらに大樹連司と、アニメ音痴の私でも知っているスタッフが参加している作品として、大いに気になっていた『REVENGER』。その第一話は、主人公の雷蔵を襲う悲劇と、裏稼業チームの仕事の模様を描く、導入編といった印象です。

 雷蔵が鮮やかと言って良いような手並みで初老の武士を――雷蔵の許嫁・ゆいの父である比良田を斬り、比良田が血染めの小判を噛みしめるというアバンから始まる今回。
 葛藤を抱えた雷蔵が国に帰るに帰れず野宿しているところに、周囲の住人から相談されたという何でも屋だという幽烟が顔を見せ、話して気が晴れた雷蔵が帰国しようとしたところで、同じ薩摩藩士たちに襲われて崖から転落――幽烟の仲間である鳰に助けられた雷蔵はこの一件のカラクリを聞かされ、幽烟たちが実は復讐を代行する「利便事屋」であることを知り……

 と、前半で非常にテンポ良く今回の物語構造を見せた上で、後半は雷蔵の手引きで薩摩の松峰屋敷に潜入した利便事屋たちが、それぞれの技で悪を始末していくという展開に集中することになります。
 美少年・鳰のガラスを仕込んだ凧糸による絞殺、博打打ちの惣二(突然CM明けに登場して驚きましたが)の暗器花札と、ある意味シンプルな殺し技が続きますが、蒔絵師という顔も持つ幽烟が、金箔を相手の顔に貼り付けて窒息死させるのは非常に面白い技でしょう。

 そしてそんな幽烟たちを出し抜き、一人松峰を追った雷蔵は、己の剣で相手を斬り捨てた後に、ゆいの下へ急ぐも……


 という第一話の印象を申しあげれば、丁寧に作られた普通の話、というのが正直なところであります。

 確かに時代ものとしてパッと見の違和感は少なく――といっても、主人公のビジュアルの時点で色々とツッコミどころはあるわけですが――先に述べたように非常にテンポ良く物語は展開し、メインというべき殺しのシーンは外連味たっぷりに、しかし破綻するギリギリのところで格好良く見せる。この辺りのセンスは、流石というべきでしょう。(「利便事屋」=REVENGERというのも楽しい)

 ただ、物語としては、「藩内の争いに巻き込まれて濡れ衣を着せられ、藩に居られなくなった主人公が――」というのは、時代ものとしてはあまりによく見かけるパターンで、これも非常にメジャーである「必殺もの」という題材と合わさると、この第一話の時点では、あまり独自性は感じられませんでした。
(結末も十分予想の範囲内、というよりこれ以外ないわけで)

 もちろんこれは、年がら年中その手の話ばかり読んだりしているような中途半端な時代ものマニアの感想。ここまできっちりと必殺したアニメは確かになかったかと思いますし、想定する視聴者層・ファン層には、新鮮であろうことは納得できます。
 要するに今のところはnot for meという印象なのですが、もちろんこの先、本作ならではの独自性が――物語展開の上でも、物語世界の上でも――あることでしょう。自分の不明を恥じるような展開になることを、心から期待しているところです。
(特に一目で異形とわかる長崎の出城(?)や「アンゲリア」なる異国の存在については、本作の時代考証のエクスキューズに使われるだけでないことを祈りたいと思います)


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