細川忠孝『ツワモノガタリ』第5巻 激突 一刀流vs我流、現実の剣vs漫画の剣!?
新選組の強者たちが、様々な流派の達人たちと死闘を繰り広げる『ツワモノガタリ』、その第五巻で描かれるのは四の段――一刀流 斎藤一 対 我流 河上彦斎。「我流」という、現実にはおよそ達人を生み出すはずがないところから恐るべき力を見せる彦斎の剣に、斎藤は如何に挑むのか?
酒席の座興で、これまで戦った中で最も強い敵は誰かを新選組の面々が語り合うという趣向の本作。その四番目に登場したのは斎藤一であります。
その経歴には謎が多いものの、その強さについては衆目が一致する斎藤――本作における斎藤は極度の怖がりですが、それを逆に活かした彼は、日頃から全ての危険を想像して暮らすことにより、ついに一刀流の秘奥である先の先の先の境地に至ったのであります。
そんなある日、突然斎藤の前に現れ、刃を向けてきた彦斎。彦斎が自分を襲う理由(これがまたなかなかユニークなのですが)を知った斎藤が後退を選ぶはずもありませんが――しかし彼は、すぐに彦斎の剣の異様さを嫌というほど知ることになります。
これまでおよそ剣というものを正式に学んだことのない、まさに我流の彦斎。しかし型の土台がない、「形無し」であるはずの彦斎は、その異常なまでの天稟を発揮し、斎藤を追い詰めるのです。
これまで、様々な達人と達人同士の対決を通じて、同時に様々な流派と流派の対決を描いてきた本作。死合において勝敗を分けるのは、流派そのものの強弱ではなく、それを操る本人の強弱であることは言うまでもありませんが――しかしそこにおいて、それぞれの流派の特徴と技が大きな意味を持つことを、本作はこれまで描いてきました。
しかしここで彦斎が振るう剣は、いかなる流派でもない、いかなる流派にもない剣――ある意味本作においては最も描きにくい、そしてそれだけに強弱の予想が全くつかない剣であると言ってもよいでしょう。
その剣を本作が如何に描くのか――それは型がないからこそ出せる(=描ける)、ある意味実に「漫画的」な奇剣の数々であります。それに対して斎藤が振るうのは、あくまでも「現実的」な剣――その両者の対決は、これまで本作で描かれてきたもの以上に、異種の戦い、いや異次元の戦いなのかもしれません。
そんなある意味極限の戦いをどのように描いたかが、この巻の見どころであることは言うまでもありませんが、しかし先に述べた通り、勝敗を分けるのは剣を振るう者の強さであります。そしてここで描かれる強さとは、そして勝敗の理由は――これまでに描かれたドラマが見事に活かされたその理由は、三の段同様、それを目の当たりにした我々にとって納得できるものであると同時に、大いに胸を熱くさせてくれるものなのです。
そしてまた、本作においては、死合の決着と史実との整合性が見どころの一つなのですが、この段の結びもまたお見事、と言うほかありません。
さて、残る強者たちもわずかとなってきたところで、ついに登場するのは真打・土方歳三。その彼が強く危険視し、絶対に俺が斬ると言い切る相手とは――話題性という点ではこれ以上のものはない、これまた異次元の対決が、いよいよ次巻から始まります。
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