「コミック乱ツインズ」2023年3月号(その一)
今月の「コミック乱ツインズ」誌は、池波正太郎生誕100年ということで、表紙は最終回直前の『侠客』、巻頭カラーは今回最終回の『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』。特別読切で『口八丁堀』が再登場です。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。
『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎)
先月号で紹介の映画『仕掛人・藤枝梅安』も公開され、盛り上がる中で最終回を迎えることとなった本作、そのラストの主人公は、やはり梅安と彦次郎のコンビであります。白子屋との決戦のため、死を覚悟して大坂に旅立った二人――ですが、最後の旅になるであろう東海道をのんびりと、旨いものを食べまくりながら旅する姿が描かれます。
大磯・島田・新居・桑名・坂下・三条大橋とこれでもかと旨そうな名物の連続で来て、ラストは枚方宿で迎えることになるのですが――ここで二人の「最後の晩餐」の内容にはグッとくること間違いなし。どんな贅沢なもの、名物を食べたとしても、何よりも気が置けない友との想いの籠もった食事に勝るものはない――無心に飯をかっ込む二人の澄んだ目が印象に残る結末であります。
梅安――というか池波作品といえば食も大事な要素であることはもちろんですが、それを中心に据えてショートエピソードを設定するというのはなかなか難しい試み。それをきっちりと結末まで描いてみせたのに感服いたします。
『侠客』(落合裕介&池波正太郎)
明暦の大火の復興で、いよいよ町奴の立場が強まる中、双方に人死にが出て引くに引けない関係となってしまった町奴と旗本奴。奇しくもそのそれぞれを束ねることになった幡随院長兵衛と水野十郎左衛門は、、もはやかつてのように語り合うことはできず――という中で、やむを得ず、長兵衛と正面から対峙することを決めた十郎左衛門。
「塚本伊太郎」へ「水野百助」から送られた書状に記されていたのは、久しぶりに酒を酌み交わしたいという言葉だったのですが――これで手打ちになったと喜ぶ町奴側に対して、旗本奴は、いや十郎左衛門以外の面々にはある思惑が……
というところで思わぬ過去を背負った男が現れ、因縁というものを感じさせられる今回。はたして長兵衛の、十郎左衛門の想いは無に帰すのか――「湯殿の長兵衛」とはまた異なる結末を迎えるであろうこの物語は、いよいよ次回最終回であります。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
大奥の監察という、本来業務に沿っているような沿っていないような仕事で初残業(それでも午後六時!)となった聡四郎。帰りに紅のいない相模屋を訪れて夕飯を食べる聡四郎ですが、その中で袖吉から、今の上様は誰のお子様なんでしょうねえと言われ、何か言い訳しながら(後でバレたら大変ですからね)単身吉原へ向います。
そこで吉原惣名主の西田屋に、女は子供の父親が誰かわかるものかと訪ねる聡四郎ですが、遊女が答えたその内容は……
と、初めての仕事に悩む聡四郎が描かれる今回、そんな時に頼りになるのは、そう、無手斎先生――というわけで道場を訪れた聡四郎と玄馬に、無手斎の衝撃の告白が! というのはさておき、ここでの無手斎のアドバイスは、真剣にビジネスの上でも役に立つと思うので必見です。
ちなみに今回も格好良いキャラ名表示はあるのですが、それを見るまで玄馬が前回出なかったのを忘れていました……
『ビジャの女王』(森秀樹)
ラジンの地位を脅かしたクトゥルンは、名無しの機転に敗れて無惨にも火あぶりに――というわけで悲惨な結末となったモンゴルの王位争いでしたが、今回描かれるのはビジャの王位争い。王の証を求めての二人きりの旅から帰還したオッド姫とブブですが、しかし帰ってみればいきなり宮殿が燃えているという衝撃展開であります。
実はこれはボンクラのヤヴェ王子が自棄を起こして火をつけたもの。あまりの状況に悩むオッド姫を前にして、「ジイ」とゾフィ隊長はある覚悟を……
という展開も気になりますが、ある意味それ以上に気になるのは、第二のインド墨者・モズが語る、ブブにまつわるある事実。はたしてこれがこの先物語にどう絡むのか、いささかどころでなく気になります。
長くなりましたので次回に続きます。
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