出口真人『前田慶次かぶき旅』第12巻 偲び語り、武人・細川ガラシャ!?
まだまだ続く前田慶次郎のかぶき旅、前巻では筑前の黒田家で大暴れしましたが、今度の舞台は豊前の細川家――惚れた女に会いに来たという慶次ですが、その相手は、あの細川ガラシャ!? その一方で、いよいよ慶次を危険視する家康の刺客・伊賀の影組が暗躍を開始し、豊前の地は一触即発の状態に……
薩摩から筑前に足を踏み入れ、後藤又兵衛と意気投合した慶次。そこで慶次は、又兵衛の主でありながら器が小さくヒステリックな黒田長政に、城井鎮房の怨霊騒動を仕掛けて散々怖がらせた末に、鎮房の娘・鶴姫の「仇討ち」に力を貸すのでした。
そんな大暴れの次に慶次一行が向かったのは、今は細川家の領土である豊前――細川家の今の当主は忠興、「天下一の短気者」と呼ばれる人物であります。
そして慶次が豊前を訪れた理由こそ、その忠興の妻であり、先の関ヶ原の戦の際に壮絶に散った玉、またの名を細川ガラシャに「会う」ためだというのですが……
というわけで、後藤又兵衛との対比で小人物に描かれた感のある黒田長政の次に登場したのは、誇張抜きで史実の上でも色々とマズい感のある細川忠興。
作中でもその器の小さな暴君ぶりたるや、慶次の制裁待ったなし、という印象ですが――この巻は(まだ)そこまで至らず、むしろガラシャの存在がクローズアップされた、というよりこの巻の主人公はガラシャとすら言ってよいように思えます。
あの明智光秀の娘であり、忠興に嫁いだ後にキリスト教に入信、関ヶ原の戦では西軍の人質となるのをよしとせず、屋敷に立て籠もって壮絶な最期を遂げたというガラシャ。忠興がアレなこともあり、その夫婦仲は決して良くはなかったと言われるガラシャですが――本作はそのガラシャを、他の作品とは一風変わった形で描きます。
そう、本作におけるガラシャを一言でいえば「武人」。あのいくさ人の代名詞のような慶次が、武人として敬意を表し、偲ぶのですから、その凄まじさを思うべしでしょう。
もちろん、ガラシャがその心ばえだけでなく、実力の上でも武人に描かれるのが本作であります。何しろ、死の直前に屋敷に殺到した西軍の軍勢を前にして、薙刀を振るっての無双ぶり。そしてその死が語られた後も、木刀で勝負を挑んできた忠興を一撃で昏倒させる、結婚前には父・光秀を上回る鉄砲の腕で信長を驚かせるという豪傑ぶりであります。
しかしそれだけでなく、死の直前に家老の小笠原少斎(この人もかなりのいくさ人)に「おなごであるがなんとも惜しゅうござったな」と言われて、「いいえ おなごも楽しゅうありました」と笑顔で答える姿など、見事というほかありません。
そしてそんなガラシャに密かに想いを寄せていた忠興の弟・興元に、「武士なれば恋の至極は忍ぶ恋かと存ずる」と告げる慶次もまた実に良く、まさかガラシャを題材にしてこのように爽快な物語になるとは――と感じいった次第です。
しかし、やはり慶次の行くところ、いくさが付きまといます。九州の大名たち、そしてキリシタン勢力が団結することを恐れた家康と本多正信は、かねてより危険視していた慶次抹殺を決断――家康直轄の伊賀の忍び集団「伊賀の影組」の鬼鴉が動き出すことになります。
そしてこの何となく懐かしいビジュアルの鬼鴉が目をつけたのが忠興。その術中に陥った忠興は、慶次を中津城に招くのですが――そこにあるのが死の罠であることは言うまでもありません。待ち受ける疋田陰流の剣士たち、そして忍びたち――しかしこれに怖じる慶次ではないことも、もちろん言うまでもないでしょう。
むしろこれはどう考えても合法的に(?)忠興に鉄拳制裁を食らわすチャンス。この巻では全く良いところがなかった忠興の、今後の運命が心配であります。
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