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2023.03.19

「コミック乱ツインズ」2023年4月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」4月号の紹介、その二であります。今回は骨太の作品が並びました。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 いよいよ激化する一方の次代の将軍位を巡る暗闘ですが、その戦いが繰り広げられるのは江戸だけではありません。今回の舞台となるのは紀州――柳沢吉保の最後の命を受けて吉宗暗殺に向かった徒目付・永渕啓輔が、何と今回の主人公というべき役割を果たすことになります。

 剣においては水城聡四郎の好敵手である永渕ですが、さすがは隠密の任務も担当する徒目付らしく、江戸からの小間物屋というスタイルで紀州の城下町に潜入。商人宿に泊まり込んで、商品を売り歩くという名目で歩き回るというのは、遠国御用の定番という印象ですが――しかし計算外(?)は今の紀州は吉宗の倹約政策で品が売れないことであります。
 「しまったなぁ……」という芝居が、いつものクールな彼らしくなくて実に新鮮ですが、もちろんそれで引き下がるはずもありません。今度は吉宗の菩提寺に手を伸ばした永渕ですが、誤算だったのは吉宗が下々の世情に通じていること、そして異様にフットワークが軽かったことであります。

 まだ心の準備が出来ていなかったところで吉宗と対面してしまった永渕の行動とその結果は――仮に心の準備ができていたとしても同じ結果となったのではないかと思わされますが、やはりここは将軍を窺う人間として、吉宗の貫目勝ちというべきでしょうか。


『ビジャの女王』(森秀樹)
 ようやくオッド姫とブブが帰ってきたと思えば、ヤヴェ王子の暴走に揺れていたビジャ。ここにジィと大隊長ゾフィはそれぞれヤヴェ殺しという決意を固め、そしてついにジィに先んじてゾフィがヤヴェを手に掛け……
 ということで、蒙古側だけでなくビジャ側でも血が流されることとなった後継者争い。しかし大きく異なるのは、ビジャの側には墨家がいることでしょう。大逆の罪をひっかぶって命を絶ったゾフィに対し、ブブが見せた行動とは――あっ、これ『墨攻』で見た気がする! というのはさておき、残酷でプリミティブなようでいて人の情の通ったブブの行いには、古代から変わらぬ墨家の姿を見た思いがします。

 そしてその行為は、意外な人物の心を動かすことになります。以前から、ある意味典型的な小才子の奸物のようでいて、奇妙に人間味のあるところを見せていたこの人物ですが、さてここから本格的に変わっていくのか――それはまだわかりませんが、彼の良心を信じてみたい気もいたします。


『侠客』(落合裕介&池波正太郎)
 ついに最終回を迎えた本作、水野十郎左衛門に呼び出され、長兵衛は彼の屋敷に向かうことになります。十郎左衛門も長兵衛も、それぞれに和解の道を探しての対面ですが、しかし旗本奴たちが長兵衛をただで帰すはずもなく……

 というわけで、結局運命は変わることなく「湯殿の長兵衛」で終わることとなった本作ですが、しかし長兵衛の預かり知らぬところで行われたというのが、一つの救いとも皮肉ともいうべきでしょうか。命が失われていく長兵衛を抱き留めて、「伊太郎っ」とかつての名を呼ぶ十郎左衛門の姿は、何とも刺さるものがありますが――それ以上に衝撃的なのは、後日談で語られる彼の切腹時の姿でしょう。
 これがあの快男児か、と愕然とさせられるその姿からは、その後に彼の抱えた絶望と――武士を捨てた、いや捨てることができた長兵衛が、しかし十郎左衛門よりも旗本奴の誰よりも、「武士らしい」潔い死に様を遂げた、運命の残酷さ、皮肉さを感じさせられます。

 しかしもちろんそれだけでなく、長兵衛の生涯に見出すべきは、如何にして人が人として生きるべきか、という上での一つの希望なのでしょう。『侠客』、大団円であります。


 次回に続きます。


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