赤名修『賊軍 土方歳三』第8巻 蝦夷共和国編突入! 爆弾を背負った土方!?
表紙の土方の姿を見れば、もうここまで来てしまったのか――という思いも強くある『賊軍 土方歳三』、おそらくは最終章であろう蝦夷共和国編に突入であります。友も仲間も主も失った末に、蝦夷に辿り着いた土方ら旧幕府軍。そこで新たな国を作るという榎本武揚の大志に賭ける土方ですが……
松平容保、そして現藩主・喜徳の下で会津を守るため戦い続けた土方と新選組ですが、沖田の病状が悪化し、斎藤は行方不明となり、次々と仲間を失った末に、会津藩はついに落城。その後も仙台藩の脱落により奥羽越列藩同盟は崩壊、輪王寺宮を京に戻したことにより、東北王朝も夢と消えることになります。
そんな中で唯一の希望というべき、榎本武揚の艦隊と合流した土方たち旧幕府軍は蝦夷地に向かうことになるのですが……
というわけで、ついにこの物語も終盤にさしかかった感がありますが、この巻からはついに土方たちの蝦夷での戦いが始まることになります。しかしその前に土方は新選組解散を宣言。それは春日左衛門が原田左之助の伝言を土方に伝え、そして市村(=沖田)の合流もあって、結局復活することになったのですが――ここでとんでもない爆弾が爆発することになります。
ここのところ史実通りの展開が続き、比較的大人しめの印象があった本作。しかしここで描かれた土方の姿は、意外極まりない――というより、新選組ものはこれまで色々と読んできましたが、土方がこうなった作品は初めてでは!? という印象すらあります。
もちろんこの事態が土方にいかなる影響を与えるのか、現時点ではまだわかりませんが――しかしこれで土方も後がなくなったのは間違いないでしょう。
史実を踏まえつつも、その隙間を縫って次々と意外な物語を展開してきた本作ですが、復帰したとはいえまだこの先がどうなるかわからない市村ともども、その隙間が気になってしまうのは間違いありません。
さて、「蝦夷共和国」樹立に向けて和戦両様の構えを取りつつ、五稜郭に向けて二手に分かれて進軍することとなった旧幕府軍。土方は進軍しつつ新選組の少年兵たちを鍛えようとするのですが――その前に現れたのは、ある意味蝦夷地名物となった感もある、あの生物であります。
これに対して実地訓練とばかりに少年兵たちを戦いに向かわせる土方ですが、さすがにこれは無茶なのでは――と思いきや、彼らを鍛えたのはかの山本八重だった、という展開も面白い(そして八重が気弱な少年に課した訓練がこれまた愉快)。
さっそく史実の隙間を縫ってみせた展開にニヤリとさせられた次第です。
そしてついに箱館を占領した旧幕府軍ですが、ここで土方は長かった髪をばっさり落とし、この巻の表紙にもなっている、あのスタイルとなります。
実はこのシーンは、本作の冒頭でも描かれていたものですが――実はここまで長い回想であったともいうべき物語は、いよいよここから未知の領域に踏み込んでいくといえるでしょう。
いま第一巻を読み返してみると、地理的空間だけでなく、物語の空気感まで含めて、随分遠くまで来たという印象ですが――さて、土方も爆弾を抱えた中、この先の蝦夷共和国、この先の箱館戦争がどのように描かれることでしょうか。
史実の隙間の意外史に、この先も期待したいと思います。
(とりあえず黒田清隆のビジュアルは意外ですが――確かにこの体で酒乱になったら随分と恐ろしいことでしょう)
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