木野麻貴子『妖怪めし』第2巻 妖怪たちを満たし癒やす料理と、一ひねり効いた物語の冴え
妖怪時代漫画+グルメという、ありそうでなかった作品『妖怪めし』の第二巻であります。ある目的のために諸国をさすらう旅の飯屋兄弟の前に立ち塞がる謎の怪物・不浄の王。不浄の王によって暴走した妖怪たちを満たし、癒やす二人の奮闘は続きます。
子供のような体にひょっとこのような顔つきの兄・兵徳と、色の変わった前髪で怪力の弟・忌火の兄弟――かつて母が殺された場で謎の骨仮面の男と遭遇し、異形の体に変えられてしまったという過去を持つ二人は、仇と思しきこの男を探す旅の最中。
その途中、妖怪たちが起こす事件に巻き込まれた二人は、得意の料理で妖怪たちの胃を満たし、心を癒やしていくことになります。
そんな中、各地で妖怪たちを暴走させている異形の存在・不浄の王と出会った二人は、自分に呪いをかけた男に通じるものを感じて……
というわけで、妖怪を料理するのではなく、妖怪に料理する兄弟を描く本作。二人の旅の目的は母の仇討ちと自分たちにかけられた呪いを解くことですが、その仇との繋がりがあると思しい不浄の王の情報を得るため、彼に暴走させられた妖怪たちを餌付けする――という、ある意味身も蓋もない目的の二人の奮闘が、この巻では描かれることになります。
が、兄弟と妖怪たちの対峙は、いずれも一ひねりが加えられたエピソードなのが実に面白いところです。
たとえばこの巻の冒頭のエピソードは、ガタロー(河童)のガタにまつわる物語。最近人間や馬を襲うようになったガタと出くわし、冬の川に落ちた兄弟は、薬師の堤と出会うことになります。兄弟がガタを捕まえようとする一方で、堤がかつて赤子の頃の自分を人質に両親を殺し、河童の秘伝薬を奪ったと告げるガタ。はたして兄弟は堤の薬草保管庫でガタの言葉を裏付けるものを見つけるのですが……
人に危害を及ぼしていた妖怪に実はよんどころない事情があった、あるいは妖怪の側の方が被害者だったというのは、妖怪ものでしばしばあるシチュエーションであります。特に単純に退治して終わり、とはならない本作の場合、妖怪側の事情にも力を入れて描かれるため、こうしたケースが多いようにも思えてしまいますが――しかしそれだけに終わらないのが本作の面白さです。
このガタのエピソードも、次から次へと状況が一転二転し、そしてようやく語られた真実を伝えるために兄弟の料理が、という展開が印象に残ります。
もちろんそれだけでなく、人間の側が本当に悪いエピソードもあるのですが――いずれにせよ、単純にパターン化されていない物語が展開されるのは大歓迎であります。
そして、本作の最大の特長である料理が実に美味しそうというのは、もちろんのことであります。料理を食べた妖怪のリアクションが、ほとんどグルメ漫画のそれというのはちょっと――という気もしますが、例えばこの巻に収録の「食わず女房」のエピソードのように、料理を食べること自体が物語で重要な意味を持つ物語もあり、料理で妖怪を満たし、癒やすことの意味が、様々な形で描かれているのに好感が持てます。
そして物語の軸である骨仮面の男ですが――真相はある程度予想できるものの、さて本作の場合、それが本当にその通りになるのか、まだまだ予断を許さないところであります。(あと、意外と抜けているのがちょっとおかしい)
この先、骨仮面の男、そして不浄の王にまつわるいかなる物語が描かれるのか、そしてそこでいかなる料理が振る舞われるのか――各回のエピソード同様、大きな物語の方も気になるところです。
『妖怪めし』第2巻(木野麻貴子&木下昌美 (監修) マッグガーデンコミックスBeat'sシリーズ) Amazon
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