『REVENGER』 第九話「Mutual Understanding」
狙撃により倒れた劉を匿った雷蔵たちは、劉が清国の命で、日本に持ち込まれたアンゲリアの阿片の行方を追っていると知る。しかし貞たちによって劉の配下は壊滅し、新たな刺客との戦いの中、劉も力尽きる。志半ばに散った劉の恨みを託された雷蔵だが、礼拝堂は黒幕と結び、幽烟たちの敵に回り……
突然の銃声に劉が倒れ――という引きから続く今回、さすがに劉は一命を取り留め、彼の口から阿片にまつわる諸々の真実が語られることになります。そしてその背後に潜む黒幕の正体もまた。
どうやら劉は敵ではないと察したこともあり劉を担いで徹破たちのもとへ劉を担ぎ込んだ雷蔵。既に劉の素性を知っている幽烟たちにもはや隠すまでもなく、劉は真実を語ることになります。アンゲリアから流れ込んだ大量の阿片によって多大な被害を受けた清国。その状況を憂いた欽差大臣・林則徐の厳しい取り締まりにより、アンゲリアは大量の阿片を周辺諸国に分散し――劉は林則徐の密命を受け、長崎にも流れ込んだその阿片を処分しようとしていたのであります。
長崎に入り込んだ阿片を葬り去りたいというのは劉も利便事屋も(というより雷蔵も)同じ立場、両者は手を組めるはず――と言いたいところですが、劉から見れば利便事屋は単なる殺し屋。特に祖国を守るための主命を受け、武人としての誇りを胸に抱き続ける彼から見れば、もはや仕えるべき主を持たず、利便事屋に身を落とした雷蔵は、唾棄すべき存在なのでしょう。
そしてさらに、阿片が遠因である唯の死を引きずる雷蔵の想いを、くだらぬ感傷と吐き捨てる劉ですが――それを淡々と受け止め、「そなたの言い分はもっともだ」と答えてみせる雷蔵の姿には、それだけに彼の背負うものの深さと彼の強さが感じられ、個人的には彼に初めて共感できたように思います。
しかしそうしている間にも敵の魔手は唐人街に迫り、劉の部下たちは壊滅。そしてその騒ぎを調べに行った雷蔵が離れた間に、劉が刺客に襲撃され、さしもの劉にも力尽きる時が訪れます。主命を果たせず、無念に慟哭する劉――しかし彼の無念にはもう一つ、妹を廃人とした阿片に、その阿片を弄ぶ者たちに一矢報いることができなかったことがありました。そう、雷蔵を感傷的と切り捨てつつも、実は劉の中にあった想いは雷蔵と同じもの、二人はある意味表裏一体の関係であったといえるかもしれません。
そしてそれを知った雷蔵の答えは――「ならば託せ! その恨み、我らに託せ!」ここに真の恨噛みが行われ、その恨みは雷蔵に、雷蔵たち利便事屋に託されたのであります。
しかしその一方で、雷蔵たちもまた、敵の包囲網の中に追い詰められていくこととなります。徹破の悪い予想は当たり、礼拝堂は彼らのチームは無関係と言い切り、そして阿片を手に入れていた黒幕である長崎会所の宍戸により、貞に雷蔵たちへの利便事の依頼がなされることに……
というわけで劉たち唐人街は退場し、雷蔵・幽烟たちのチームvs長崎会所の宍戸・遍路の貞たちのチームという構図に収斂することとなった物語。ここで敵側と結んだ礼拝堂の真意がまだ見えませんが――ジェラルド嘉納ではなくシスターのみが宍戸と話しているのが気になります――いずれにせよ礼拝堂が今は敵に回った、いや幽烟チームが利便事屋ではないとまで言い切ったことは、この先彼らに大きな影響を及ぼすことは間違いありません。
特に、どこまで礼拝堂を信用しているか怪しい幽烟や、自分なりの考えを持っているであろう徹破、幽烟が掟のようになっている鳰はともかく、掟の存在によりかかり、何も考えずに利便事をこなしていた(ある意味それは物語冒頭の雷蔵の姿に重なるわけですが)惣二が、それゆえに最も考えることを余儀なくされるというのは、何とも皮肉な構図です。
さて、今後のことはともかく、今回一番盛り上がったのは、劉の恨噛みのくだりであることは間違いありませんが、それはライバルが壮絶に退場したからというだけでなく、その無念の想いを主人公が受け継いだ――それも利便事という物語の根幹と有機的に結びつく形で描かれたからであることは、言うまでもないでしょう。
そしてここで描かれているのは、いわゆる必殺ものにつきまとう命題――彼らと金で人を殺す殺し屋とを、あるいは市井から悪党を成敗するヴィジランテとを分かつものは何か、という問いかけの答えであると感じます。もちろん、それが明示的に描かれているわけではありませんが――劉の死を間に置いて、雷蔵と、外道利便事屋とでもいうべき遍路の貞の姿を見比べた時に、それは浮かび上がっていると感じられるのです。
あるいはその答えが、物語の結末において雷蔵の新たな生の意味と重なり合うのであれば、かなり満足の行くものとなるように思えるのですが――さすがにそれは気が早すぎるというものでしょうか。
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