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2023.03.09

相田美紅『呪われ少将の交遊録』 「陰陽師もの」の定番を外れた苦さの先にある感動

 時は平安、愛する人を無惨な形で喪ったことから「呪われ少将」なる有り難くないあだ名を付けられてしまった青年貴族が、凄腕ながら人間嫌いの呪術師とともに、奇怪な事件に挑む本作――かなり重く、苦い味わいの物語ながら、その先に不思議な感動がある、ユニークな陰陽師ものであります。

 お人好しで生真面目なことと、琴の腕が取り柄の青年貴族・清河尚成。そんな彼は右近衛府の少将への昇進話が持ち上がり、さらに勝ち気で美しい女性・鶴姫との結婚まで決まり、幸せの絶頂だったのですが――その直後に、彼の屋敷では奇怪な出来事が続き、さらに鶴姫が何者かによって見るも無惨な最期を遂げることになります。
 その後も周囲で奇怪な影が出没し、次第に正気を失っていく尚成。その果てに屋敷の中から何処から消えてしまった尚成を救うため、彼の大叔母は、都一の呪術師・福治に解決を依頼するのでした。

 宮中の顧客も多いものの、経歴は一切不明、気に入らない依頼は決して受けないという福治。それでも依頼を引き受けてたちどころに尚成の行方を突き止める福治ですが、彼が露わにした尚成を攫ったものの正体は……


 お人好しの貴族と、偏屈者の陰陽師(本作の場合は在野の呪術師ですが)のコンビというのは、これはもう陰陽師ものの定番というべきでしょう。しかもタイトルに「交遊録」がついているのを見れば、なにやら楽しげな雰囲気が感じられます。

 が、本作は上で紹介した第一話「水晶」の時点で、凄まじくヘビーな内容。婚約者を惨殺され、昇進を横取りされ、周囲に裏切られ、自分も狂いかけた上に何者かに囚われる――大げさに言ってしまえば、尚成を襲う運命は、復讐もののバイオレンス小説の導入のようであります。
 一方で本作においてヒーロー役であるはずの呪術師・福治も、人嫌いで報酬にうるさく、そして(これが重要なところですが)尚成にやたらと冷淡――と、こちらの抱いていた陰陽師もののイメージとは、かなり異なる物語と人物配置に驚かされます。

 そして続く第二話「金華の夜」は、さる貴族の姫君が、昏睡状態のまま、腹だけが大きくなっていく怪事の顛末が描かれます。
 第一話で福治に助けられたものの、「呪われ少将」と言われるようになってしまい、その評判(?)を聞いてきた姫君の父に請われて姫君のことを調べる羽目になった尚成。そこで彼は、ごく普通の家族に見える人々の中に、どこか違和感を感じるのですが――クライマックスに露わになるその真実にも、かなりのインパクトがあります。


 しかし、こちらの思いこみから離れて見れば、本作は物語展開など、かなり捻りの入った、よくできた物語であることがわかります。
 例えば第一話で尚成を攫った存在や、第二話で姫君を妊娠させた者の正体は、予想がつく方も多いと思うのですが――しかしその真相は、そしてそこから展開される物語は、こちらの予想を超えて意外な方向に展開し、それが物語に切ない色彩を与えていくのであります。(まさしく「鬼神に横道無し」と言いたくなるような……)

 そしてその本作ならではの構成・展開の妙が強く感じられるのは、第三話「真澄鏡」でしょう。
 見る者の欲望を幻想として映し出す魔鏡・魔棲鏡――福治のもとから盗み出されたこの鏡による騒動は、一度は福治によってあっさり解決することになります。しかしその直後に鏡の魔が逃げ出したことで、さらなる犠牲者が続出、そして福治までもが姿を消してしまい……

 という展開の中で描かれるのは、福治の意外極まりない正体(これは本当に仰天)と、彼が秘めた過去の想いであります。そしてそれと同時に、福治のために立ち上がる尚成の姿もまた、描かれるのですが――それはこれまでのエピソードで尚成が見たもの、経験した哀しみがあるからこそ、という展開には、やられた! と膝を打った次第です。


 やはり「交遊録」というタイトルには疑問が残りますし、そもそも第二話でしか「呪われ少将」と呼ばれていないのも気になるところではあります。それでも、本作だからこそ描ける尖った味わいが印象に残る、得難い作品であることは間違いありません。


『呪われ少将の交遊録』(相田美紅 ポプラ文庫) Amazon

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