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2023.03.07

やまざき貴子『LEGAの13』第2-3巻 窮地!? ヴェネチアの政治の闇に巻き込まれたレガーレ

 16世紀末のヴェネチアで、数奇な運命を辿ることとなった薬師見習いの美青年・レガーレを描く西洋伝奇の続巻であります。元首の下に監禁され、錬金術に励む羽目になったレガーレですが、懲りることなくあちこちに首を突っ込んでは騒動に巻き込まれる毎日。しかしやがて事態は不穏の度合いを深めて……

 薬師を営む父・ゲオルグの下で薬師見習いを務めつつも密かに錬金術の研究を行っていたレガーレ。しかしある日突然に父が魔女の疑いで捕らえられ、その身代わりとして時の元首パスクアーレ・チコーニャの下に監禁され、黄金作りの研究をすることになります。
 しかし根が快楽主義のレガーレは、そんな環境でも真面目に研究せず、マイペースに暮らすばかり。神父や大使など複数の顔を持つ謎の青年・コルヴォ、レガーレや一部の人間にしか見えない霊体の少女・クラリーチェなど個性的な人々に囲まれつつ、元首の娘アルフォンシーナと恋に落ちたり、メディチ家を狙う陰謀に巻き込まれたりと、数々の騒動に首を突っ込み……

 という設定で展開する物語の第2巻は、独立した3つのエピソードで構成されています。
 レガーレの仕事部屋の床下に隠された通路の先の牢獄に捕らえられていた海賊が、アルジェの海賊とある貴婦人の出会いを語る「レヴァンテの海賊」
 かつてレガーレと瓜二つの女性の肖像画に一目惚れしたという旅芸人一座の少年・ピエロとの出会いと、元首の密偵を務める一座の頭領を巡る騒動が描かれる「謳う道化師」
 宮殿から抜け出したレガーレが借金をしたトルコの商人・クリストバルと、娼婦になるためにヴェネチアにやって来た彼の妹の複雑な愛の形を描く「異郷の賢人」

 いずれも、東西の文化の交点として様々な人々が行き交い、華麗な芸術や文化が花開く一方で、政治の世界では複雑怪奇な陰謀が繰り広げられたこの時代のヴェネチアならではの物語が、ある意味狂言回しであるレガーレの目を通じて描かれていくことになります。
 そのバラエティ豊かな個々のエピソードの内容もさることながら(個人的には、何とも力強くも美しい姫君と海賊の物語「レヴァンテの海賊」が好きです)、その一方で、コルヴォの正体の一端が明らかになったり、レガーレの出自の秘密が匂わされたりと、少しずつ大きな物語が展開していくのも、たまらないものがあります。


 そして第3巻に至り、レガーレとその周囲の物語も、一気に新たな展開を迎えることになります。

 最愛の女性であるアルフォンシーナが縁談から逃れるために入ったジュデッカ島の尼僧院で、懺悔を聞く司祭たちが怪しからぬ振る舞いをしていることを知ったレガーレ。調査に当たるコルヴォの手引きで同行し、尼僧に化ける羽目になった彼は、そこで司祭が彼の顔を見て、恐怖の表情とともに「ベアトリーチェ様」と呟くのを聞くことになります。

 そしてすったもんだの末に、アルフォンシーナの助けでレガーレはヴェネチアに戻ったものの、脱獄がバレて屋根裏の牢獄に放り込まれることに。そこで退屈しのぎの占いで、元首に悪い目が出ていることを知るレガーレですが、その通りに、ペルシアの大使となっていた元首の次男が罠に嵌められて捕らえられ、元首もその座を追われることになるのでした。
 そして次なる元首グリマーニに黄金を作るよう強いられるレガーレは、若い芸術家を周囲に集めるその妻・カテリーナの下に置かれて……

 レガーレにとっては牢獄の主にして庇護者のような存在であり、これまでそれなりに好き勝手を黙認していたパスクアーレ。彼の失脚により、レガーレは一気に囚われ人としての立場に置かれることになり、窮地に立たされることになります。

 コルヴォは国外の任務に出て、ピエロも城外に追放、フィレンツェに向かったという父も音信不通。いつも身近にいたクラリーチェも姿を消し、味方となる人物を全て失った上に、心身共に痛めつけられるレガーレ。
 しかしそれでも楽天家にして鼻っ柱の強い彼は、脱出の策を巡らし――と、それがうまく行くかは伏せるとして、これまで遠景にあった政治の世界の暗闘が一気に彼の運命と重なり合い、その中で翻弄されながらも、これまで通りに自分自身を貫くレガーレの姿は、大いに魅力的であります。

 そしてそれと同時に、パスクアーレと息子を襲う悲劇、女帝の如きカテリーナの秘めた内面など、周囲の人間ドラマもまた見事な本作(特に前者は、読んでいるこちらも強烈に感情を揺さぶられる名エピソードであります)。
 いよいよ物語は後半戦、レガーレの運命の行方は、そして彼の背負った秘密とは――物語の続きは、またいずれご紹介いたします。


『LEGAの13』(やまざき貴子 小学館フラワーコミックスα) 第2巻 Amazon / 第3巻 Amazon

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