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2023.03.24

輪渡颯介『怨返し 古道具屋 皆塵堂』 非情の取り立て屋の遺産の正体!?

 曰く付きの品ばかり集まる深川の古道具屋・皆塵堂を舞台に奇人変人たちが面白コワい騒動を繰り広げる『古道具屋 皆塵堂』シリーズ、通算第十作、復活第三作は、とある旅籠に残された主の遺品を巡る物語。幽霊が憑いた品の数々の由来を調べるため、江戸にやって来た若者の奮闘の行方は……

 越ヶ谷宿の旅籠の先代の主・与兵衛が蔵に厳重にしまっていた遺品の数々を見せられることとなった甥の藤七。しかし若い頃は江戸で借金の取り立て屋「すっぽんの桑次郎」と呼ばれていたという与兵衛が残したのは、太刀・大工道具・煙草入れ・印籠・簪・丸太(?)というバラバラなものばかり――しかも品の幾つかには幽霊が憑いていたのであります。
 そんな思わぬ叔父の過去を知らされた藤七は、どうやら取り立てに関係するらしい遺品の数々を、僅かな手がかりをもとに元の持ち主に返すために江戸に向かうことになります。

 しかし江戸に着いて早々に刀ばかり奪う浪人に襲われて刀を奪われ、川に落ちた藤七が目覚めてみればそこは皆塵堂――話を聞いたいつもの面々の助けで、遺品の持ち主を探す藤七ですが、厳しくも優しかった叔父が非情な取り立て屋だったと信じられない彼は複雑な心境で……


 というわけで、毎回幽霊騒動に巻き込まれた若者が面白くも酷い目に遭う姿が描かれてきた本シリーズですが、今回の主人公は、両親を早く失い、親代わりの叔父に育てられて旅籠で働く苦労人の藤七。子供の頃から、分からないことや不思議に思ったことを人に訊いて回っていたことから「知りたがりの藤七」と呼ばれているほかは、至って常識人の青年であります。

 しかし常識人ほど酷い目に遭うのがこのシリーズのお約束。昼間も構わず場所も構わず(ちょっと今回登場するシチュエーションは珍しいのでは)幽霊に脅かされたり、刀ばかりを狙う「刀狩りの男」と出くわしたり――というだけでなく、「知りたがり」が災いして清左衛門の木材トークを延々と聞かされたり、相変わらずマイペースの巳之助に振り回されたりと、藤七は災難続きであります。
 しかし藤七にとって、災難よりも気になるのは、本当に与兵衛が非情の取り立て屋だったのか、そしてそんな彼が何故後生大事に奇妙な品の数々を残していたか、という謎。本作の中心は、幽霊の存在よりもむしろ、この謎解きにあるといえます。

 正直なところ、遺品全てに幽霊が憑いているわけではないということもあり、コワさという点ではこれまでの作品に一歩譲るところはあります。また、与兵衛の真実もある程度は予想がついてしまうのですが――それでもやはり本作が楽しいのは、藤七と他のキャラクターたちの賑やかなやり取りにあることは間違いないでしょう。
 特に助っ人に駆り出された前作の主人公・茂蔵や、絶対再登場すると思った死にたがりの若旦那など、限られた出番でもやたらと可笑しいのはさすがというほかありません。


 ちなみに、あまりにも霊能力が強力すぎて毎回存在自体が禁じ手の太一郎ですが、今回は思わぬというか、ある当然の理由でなかなか登場しないのも可笑しい。この手があったか……(?)と感心であります。


『怨返し 古道具屋 皆塵堂』(輪渡颯介 講談社文庫) Amazon

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